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「24時間水に溺れ続けるような苦しみで…」推定死者2万人の”空気殺人”。謎の病の原因は加湿器だった

韓国映画『空気殺人~TOXIC~』の元になった「加湿器殺菌剤事件」

2022/09/23
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メーカーによる実験結果の不当な操作…だが真相が明らかに

「奴らは悪魔です。危険な物だと分かりながらカネのため、人を殺してでも売る悪魔。悪魔は何事も用意周到に進めます。加湿器殺菌剤の製造販売自体に法的問題はありません。でも人が死ぬと分かりつつ製造販売したら話は違います」

映画『空気殺人~ TOXIC~』より

 一方「オキシー・レキットベンキーザー」は「加湿器殺菌剤が肺損傷のリスク要因になっている」という説に反論するため、 2011年8月、毒性学の権威であるソウル大学の教授チームに、PHMGの吸入毒性試験を依頼。教授チームはマウスによる実験を行ったが、その実験結果は巧みに操作され「因果関係が明確でない」という報告書が作成されてしまう。

参考:HUFFPOST「韓国「加湿器殺菌剤」事件、大学教授の実験報告書はこうして歪められた」

 しかし、2011年に行われた大規模な疫学調査で真相が明らかにされ「原因は加湿器の殺菌剤である」と確定され、PHMGやPGHを含む加湿器殺菌剤の販売は中止された。このとき販売禁止になるまで、PHMGやPGHを含む加湿器殺菌剤は、韓国国内だけで年間約60万個ほどが売れた。

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 最も多くの被害を出した「オキシー・レキットベンキーザー」の元社長らは業務上過失致死傷罪などで懲役7年の実刑判決を言い渡された。理由は「殺菌剤の安全性について十分に検証せず『子どもにも安全』と偽りの表示をし、商品を販売した結果、多くの人が死傷する悲惨な結果を招いた」ため。また、製品を許可した政府は「加湿器殺菌剤が安全という虚偽表示をした」という理由で、製造元の4社に課徴金5200万ウォン(当時約482万円)を課した。

「最初は病院で風邪と診断されました。空気の乾燥を防ぐため加湿器を使えと言われ殺菌剤を入れて使いました。テレビでも宣伝してたし、国も安全性を認めていました。だから当然安全だと思いました」(被害者親族)

 

「私は人殺しです。使う必要のない加湿器殺菌剤を使って妻と子どもを殺した。製品を販売した企業も、許可した政府も責任がないと言うなら私が殺したんです」(被害者親族)

 

「母の顔も覚えていません。目覚めたら歩けなくなっていた。僕はなぜこんな姿に? 母はなぜ他界を? 誰が悪いんですか?」(被害者)

 

いずれも映画『空気殺人~ TOXIC~』より

 オキシー・レキットベンキーザー社は、販売中止から5年も経過した2016年5月にようやく謝罪会見を行なった。このとき怒りの収まらぬ遺族の1人は、この場で、社の代表を平手打ちにした。

9月23日公開の劇映画『空気殺人~ TOXIC~』

「民事訴訟ではダメです。これは――殺人です」

 映画『空気殺人~ TOXIC~』より

 9月23日から日本で公開となる韓国の劇映画『空気殺人~ TOXIC~』は、この「加湿器殺菌剤事件」を描いた作品だが、実際の事件を踏襲しながらも、サスペンスフルな法廷劇が展開する劇映画だ。

 映画『殺人の追憶』などに出演してきたキム・サンギョンが主演。家族を失った医師と、その義妹である法律家が、さまざまな妨害を受けながらも、巨大な企業に立ち向かうというストーリー。表側の法廷での戦い、そして裏側でも信頼と裏切りの駆け引きが幾重にも重なって、観る者をハラハラさせる。スリルを味わいつつ、実際の事件に思いを馳せることができるだろう。

「加湿器殺菌剤事件」はつい最近、近くの国で起きた事件であり、現在もその後遺症に苦しみながら生きている被害者が、多数存在している。本作は、この事件が私たち消費者の身に起こったかもしれない「自分事」として観る事ができるだろう。

「とにかく、この出来事を“記憶”してください。この映画はただ一件の加湿器殺菌剤の話を描いているわけではなく、人による災害を描いた映画なんです。日本で言う“水俣病”のように、世界各地で起きた、またはこれから起こり得る人災なんです」

(『空気殺人~ TOXIC~』チョ・ヨンソン監督インタビューより)

『空気殺人~ TOXIC~』予告編

 

INFORMATION

『空気殺人~ TOXIC~』

公式HP
配給:ライツキューブ
< 2022/韓国/韓国語/108分>

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「24時間水に溺れ続けるような苦しみで…」推定死者2万人の”空気殺人”。謎の病の原因は加湿器だった

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