「死因は?」
「息子と同じ肺疾患だ。肺が硬くなってた」
「急にそんなことが? 今まで健康だったわ」
「1年以上患っていたようだ。急にああはならない」
「おかしいわ。だって姉は1ヶ月前に人間ドックを受けたのよ」
映画『空気殺人~TOXIC~』より
韓国では2001年ごろから、咳が出たり、息苦しさを覚えたりする症状の「間質性肺疾患」にかかる人が多く見られるようになった。
様々な原因によって起こると言われている間質性肺疾患は、肺が損傷され、徐々に繊維化していく恐ろしい疾患だ。繊維化して硬くなった肺は、いくら息を吸っても膨らむことができない。悪化すれば、肺を締め付けられ、まるで溺れ続けているような苦しみが24時間途切れることなく続く。
事件当時、疾患の原因がわかるまで「冬に爆発的に増え、春夏になると消え、秋になると再び少しずつ現れる謎の症状」として韓国の人々を恐怖に陥れた。実はこの疾患の原因は「加湿器」にあった。季節により変動していたのは、空気が乾燥して加湿器を使用する季節に現れ、暖かくなり加湿器を使用しなくなれば患者がいなくなる、ということだったのだ。
健康を守る目的で使用していたはずの加湿器が吐き出していた恐ろしい有害物質は、PHMG(ポリヘキサメチレングアニジン)とPGH(塩化エトキシエチルグアニジン)というもの。呼気から体内に入ったこれらの有害物質は肺を損傷し、患者は死に至らなくとも、生涯にわたって後遺症を抱えることになる。
韓国で起きた消費者被害で、この事件は過去最悪の規模と言われている。2016年末までに政府機関に寄せられた申告だけで負傷者4306人、死者1006人。その後も申告者は増え続けており、現在では推定死者2万人とも言われている。
まさに「空気殺人」と呼ぶべき恐ろしい状況
9月23日から日本でも公開される韓国映画『空気殺人~ TOXIC~』は、韓国で実際に起きた健康被害の事件をもとに作られた映画作品だ。2000年代、本来なら加湿器を安全に使うための殺菌剤が原因となってしまい、多くの死亡者や重症者を出した、韓国史上最悪の消費者被害事件である。
冬場の乾燥しやすい時期は、インフルエンザや呼吸器疾患の対策として、部屋の湿度を適正に保つことが有効だと言われている。しかし、加湿器は雑菌が繁殖したりカビが発生したりすることがあるので使用・管理に注意が必要だ。その予防となる殺菌剤がさまざまな商品として、現在も販売されている。
ところがある時期、韓国で複数のメーカーから販売されていた加湿器殺菌剤のなかには、非常に毒性の強い物質が含まれている商品があった。その商品を購入し使用した多くの人々は、呼吸からその毒物を取り込み、肺に恐ろしい健康被害を負った。なかでも、乳幼児や妊婦、病人といった体の抵抗力が弱い人たちには重い症状が現れ、たくさんの人が死に追いやられた。それはまさに「空気殺人」と呼ぶべき恐ろしい状況であった。