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「マズい!」と思った瞬間、白装束の女がふりむいて…神主が夜の神社で聞いた「コーン、コーン」という音の“正体”

『異職怪談~特殊職業人が遭遇した26の怪異~』より#1

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女は森で一体何をしていたのか

 怒り狂った先輩が半分以上破壊された扉を蹴り破ると、なんと女は忽然と消えていた。  

 先輩が扉を蹴ったとき、女にぶつかった衝撃は感じていたのに、だ。

 マサカリは扉に刺さったままであった。武器を持っていないのであれば男2人、こちらの方が有利である。

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「まだ遠くに行ってないはずだ、探すぞ!」B先輩と手分けをして境内を探し回ったが、女はどこにもいなかったという。

 それから2人は宮司に連絡を入れ、警察にも通報した。

「警察はすぐに来て、マサカリを押収していったよ。でもさ、そのマサカリから指紋も皮脂の組織も出なかったって。刑事から女は手袋をしていましたかって聞かれたけど、していなかったような気がするんだ。焦っててよく見てなかったのもあるけど……」

 警察もその日のうちに女を探したが、結局行方はわからずじまいであった。

 あの事件からしばらくして、B先輩は辞めてしまった。

「B先輩、ずっとあの女が自分をつけているような気がするって言ってたんだ。丑の刻参りって見られた相手を殺さないと、自分に呪いが返ってくるっていうだろ。だから、未だに俺たちを付け狙ってるんじゃないかって……実は俺も最近、あの女が近くにいるような気がして……」

 買い物中にガラスに映る女を見たんだ。びっくりして振り返ってみても、どこにもいなかったけど。ただ、ふとしたときに視界の端にいるって感じるんだ。

 見返すたび、いないんだけどさ……。

 俺も殺されたくないから、辞めて遠くの神社に行くかもしれない……。

 この話を聞いた持麻呂さんは、何も言えなかったという。

 後日、山口さんはその神社を辞めたそうだ。

 ただ不可解なことが2つある。

 警察は調べなかったそうだが、後から山口さんが藁人形を打っていた木を調べて見ると、藁人形も釘もなく、しかも釘を打ったと思われる穴も開いてなかったという。

 女は鎮守の森で、一体何をしていたのだろうか。

 山口さんたちが聞いた〈コーン、コーン〉という音からしても、何かを打ち付けていたのは間違いないとは思うのだが。

 また、彼らは女のことを人だと認識しているようであるが、本当に生きている人間の仕業なのであろうか。

 走る速さ、女性とは思えない怪力、一瞬で姿を消す能力。

 これらを考えてみても、私には異形のモノの仕業としか考えられないのである。

◆◆◆

 元神主の持麻呂さんから聞いたもう1つの体験談は『異色怪談』(彩図社)に収録されています。

異職怪談~特殊職業人が遭遇した26の怪異~

正木 信太郎 ,しのはら 史絵

彩図社

2020年1月28日 発売

「マズい!」と思った瞬間、白装束の女がふりむいて…神主が夜の神社で聞いた「コーン、コーン」という音の“正体”

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