世の中は多種多様な職業で溢れている。中には就いている人になかなかお目にかかれないような、ちょっと珍しい職業も存在する。
今回はそんな「異職」に就いている人が就業中に体験した話を、怪談師の正木信太郎さんと作家のしのはら史絵さんが聞き取ってまとめた『異職怪談』(彩図社)より「見知らぬ生徒」を抜粋。塾講師として働いていたSさんが感じた違和感の正体は——。(全2回の2回目/前編を読む)
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見知らぬ生徒
Sさんは、今から20年ほど前、都内の進学塾に勤めていた。
「塾講師といっても、正社員です。大学生や院生がアルバイトでやるのとは、ちょっと違うんですね。拘束時間も半端じゃないし、その対価なんて高が知れてる。今でいう、ブラック企業です。社員の間で、上司公認のいじめもあったので、『超』ブラックですかね」
つくづく厭そうに話すSさんは、当時、社内で良い成果を挙げられておらず、上司から“自主的に”辞めるようにいじめを受けていたそうだ。
「あぁ、すみません。愚痴になってしまって。現在は、まったく違う職種に転職しているので、今のは忘れてください」
申し訳なさそうに会釈をすると、Sさんは真面目な顔になって語りだした。
「怪異……、ですよね」
その年、Sさんは進学塾に就職した。理科系の教科を受け持つことになったそうだが、配属された先は、スーパー進学塾の教室だった。
「御三家ってご存知ですか? あ、いや、知らなくても大丈夫です。要は、あることで順位付けをした場合の、トップスリーってやつです。進学塾でいうと、偏差値が高いとか、受験の競争率が高いとかを指すことになりますね。そこを受験する中学生だけを集めた教室に配属されたんです」
ある授業での話だ。
「全員で25人いました。渡された出席名簿にも25人分の名前が書いてありました。当然ですね」
授業が始まった直後に、出席を取る。
名簿の1行目から名前を順に呼んでいくと、当たり前だが、返事がある。
「いつもの生徒たちだったはずでした」
しかし、顔を上げて生徒たちを見ると、誰だかわからない子供がひとりいる。