世の中は多種多様な職業で溢れている。中には就いている人になかなかお目にかかれないような、ちょっと珍しい職業も存在する。
今回はそんな「異職」に就いている人が就業中に体験した話を、怪談師の正木信太郎さんと作家のしのはら史絵さんが聞き取ってまとめた『異職怪談』(彩図社)より「見知らぬ生徒」を抜粋。神主であるSさんが宿直中に神社の境内で遭遇した「異形のモノ」の正体とは——。(全2回の1回目/後編を読む)
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異形のモノ
SNSで知り合った持麻呂さんは元神主である。
神道系の学科がある國學院大學に入学、神職課程を修了し、神社本庁から神職資格である「階位」を取得して神社に奉職した。
「うちの大学は、いわゆる『神職養成機関』なんです。神職を目指す学生が多い。日本最大である神社本庁所属の神社は、約79000以上といわれています。だから、全国の神社に先輩や同級生がいるんですよ。そのうち何人かは、奇妙な出来事に遭遇してるんです」
そう話してくれた持麻呂さんから、諸先輩方の恐ろしい体験談を2つ伺ってきた。
この2話についてはいわゆる「また聞き」であり、こと細やかに当事者ご本人から詳細を聞いたわけではない。
それによりわかりやすく補足している部分があることを、ご容赦願いたい。
まずは先に伺った1つ目の話から紹介する。
今から約4年前の出来事である。
その頃、すでに神職についていた持麻呂さんは、大学の同級生である山口さんと久しぶりに会うことになった。
山口さんは東京より西に所在する仇討ち系の神社に奉職していたが、その日は神職関係者との会合があり東京にきていたのだった。
飲みの席で開口一番、山口さんは青ざめた顔で「もうあの神社、辞めるかもしれない」と、持麻呂さんに打ち明けてきた。
あそこは彼が学生時代から憧れていた、念願の神社であったはず……。
ひどく驚いた持麻呂さんがわけを聞いてみると、山口さんはおずおずと口を開いていった。
「俺さ、前から幽霊とか苦手だって話してただろ。だから宿直が嫌でさ。最初はうまく理由をつけて断ってたんだけど、そうも言ってられなくなって……」
8月の上旬、山口さんは宿直を引き受けざるを得なくなった。