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「苦しいよ、助けて、死にたくない…」29歳女性が“白血病のピアニスト”を騙る男から2000万円を詐取されるまで

「苦しいよ、助けて、死にたくない…」29歳女性が“白血病のピアニスト”を騙る男から2000万円を詐取されるまで

「白血病のピアニスト」に騙された女性の告白 #1

2022/09/21

genre : 社会

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 2022年9月16日、名古屋地裁で詐欺罪に問われていた男に判決が下った。河野孝典(47)。累犯前科がある結婚詐欺師で、懲役4年6カ月の実刑だった。河野は「白血病のピアニスト」を名乗り、交際中の女性から治療費名目で計777万3000円を騙し取った罪に問われていた。

音楽系アプリで褒めちぎる

「河野に騙し取られた金額は、実際には2000万円を超えています。しかし、私が被った被害を、単なるお金の被害だと捉えないでいただきたい。河野のしたことは、意思を持った一人の人間を私利私欲のため、モノのように使い捨てる行為です。お金がなくなれば、性のはけ口として、ぞんざいに扱われました。

 私はこの事件によって生きる希望さえ失い、何度も自殺未遂をしました。河野の行為は人を殺しかねない行為です。河野の行為がいかに残酷なものであって、私が受けた精神的苦痛がどれほど大きいのか、少しでも理解していただきたいと思います」

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 こう話すのは、この事件の被害者であるA子さん(29)である。A子さんと河野は2018年3月、音楽系アプリを通じて知り合った。A子さんの歌の投稿を聴いた河野が、「才能がある」「出会ったことのない特別な歌声だ」などと褒めちぎり、「自分のライブ配信で紹介したい」などと言って、接触してきたのがきっかけだった。

交際中のLINEのやり取り(A子さん提供)

すでに2人の女性が同じ手口で被害に

 その後、A子さんは河野とツイッターでも交流するようになった。ところが河野は2018年11月、突然姿を消してしまう。実はこの時期、河野は懲役1年6カ月の実刑判決を受け、刑務所に行くことになったからだった。別の2人の女性に対し、「自分は白血病で、未承認薬の治療費が払えない」などと騙し、1人を自己破産に追い込み、もう1人から130万円を騙し取ったことが理由だ。

河野孝典。新型コロナウィルスに感染し、豊田厚生病院でエクモ(人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療)で入院しているとウソをついて送ってきたときの写真(A子さん提供)

 2020年12月、仮釈放された河野はさっそくツイッターでA子さんに連絡を取った。「白血病の治療で連絡ができなかったが、A子さんの投稿が励みとなり、寛解状態まで回復した」とのことだった。これ以降、河野はA子さんに結婚を前提とした交際がしたいと迫るようになり、デタラメな生い立ちを話し、「自分はプロの音楽家だから、一般の人が稼ぐことができないほどの収入がある」などと言って、巧みに関心を引き寄せた。