文春オンライン

2022/09/21

genre : 社会

詐欺師の常套手段「不幸な生い立ち話」で同情を引いて

「自分は捨て子だった。神戸の病院前で拾われ、児童養護施設で育った。11歳のとき(実際は19歳)、阪神大震災で施設の家族たちが死ぬのを目の当たりにした。ショックでPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、精神治療も兼ねて沖縄の施設に移されて育った。

 その後、里親に出されたが、暴力を振るわれて警察に保護された。中学生から一人暮らしを始め、施設で共に育った彼女が拉致されそうになり、犯人と闘って殴り殺してしまい、少年院に入ったこともある。東京音楽大学には特待生で入学した。渡米して海外の音楽を学んだ。ようやく音楽で生計を立てられるようになったら、30歳で白血病を発症した。沖縄で治療を担当してくれた先生が名古屋に移ることになったので、自分も仕事の拠点を名古屋に移すことにした」

 不幸な生い立ちを話して同情を引こうとするのは、詐欺師の常套手段である。A子さんは以前に白血病である交際相手の父親を介助した経験があり、その壮絶な闘病生活を知っていたことから、たまたま河野の話を信じる土壌があったのだ。A子さんは河野とLINEを交換し、年齢を10歳サバ読んだ偽りの生年月日を教えられた。

音楽の知識はあるが、楽器は何も弾けない。歌も音痴だが、「ピアノ科と声楽科は違うんだ」と言い訳していた(A子さん提供)

白血病患者をよそおい「命を利用した“脅迫”」

 河野は2021年1月30日に前刑を終了し、同年2月14日に初めてA子さんに会った。交際を開始して1週間後、「財布や通帳が入ったカバンを落とした」と言って、A子さんから4万円を借りた。これがA子さんからの最初の借金になった。

 その後、財布は見つかったが、「通帳に入っていた3200万円を不正に引き出されていた。3000万円は盗難保険で返ってくるが、ピアノのローンと所得税の支払いが間に合わないので助けてほしい」と言われ、A子さんは菓子店を開くという夢の実現のために貯めていた預金からその費用約500万円を立て替えた。

 5月からは一緒に住むようになり、河野はこの頃から本格的に体調不良を訴えてくるようになった。

「血尿が出た。体中が痛い。だるい。病院に行きたい。やっとの思いで寛解状態になったのに、このままでは再発してしまう。体に合う未承認薬を打たなければ死んでしまう。金が返ってくれば、すぐに返せるので治療費を貸してほしい」

 白血病患者の演技は、日を追うごとにどんどんエスカレートしていった。

「暴れたり、身体や頭を搔きむしったり、腕や足を赤く腫れさせて見せたり、フラフラとおぼつかない足取りで歩いたり、嘔吐物でベッドを汚したり、ボロボロと涙を流したり、食欲がないとか、検査結果で異常が見られたとか、様々な演技をして治療費を貸してほしいと迫ってきました。『苦しいよ、助けて、死にたくない』『一緒に幸せになりたいのにどうして……』などと言って、私が金を用意できなければ、大切な人が死んでしまうかもしれないという、命を利用した“脅迫”を受けていました」(A子さん)