壮絶な嫁姑バトルを描いた「羅刹の家」を代表作に持ち、“レディコミの女王”として知られる漫画家・井出智香恵さん(74)。2018年にはヒット作「ビバ!バレーボール」とGUCCIがコラボ、大英博物館に原画が展示され、日本を代表する漫画家の一人に数えられている。

 世界での知名度が高まる陰で、映画「アベンジャーズ」のハルク役を演じた人気ハリウッド俳優のマーク・ラファロを騙る男らによる国際ロマンス詐欺に引っかかり、18年から3年半にわたり総額7500万円を騙し取られた。

 人間の欲望や愛憎を描き、心の機微に精通しているはずのベテラン漫画家は、どのようにして詐欺の渦へと巻き込まれていったのだろうか。

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「ハリウッドスターからメールが届いた!」「本当かな?本物だったら面白いな」

――一連の国際ロマンス詐欺の始まりは、フェイスブックのDMに届いた“マーク・ラファロ”からのメッセージだったそうですね。元々、マークのファンだったのですか?

井出智香恵さん(以降、井出) 「アベンジャーズ」以外の作品ももちろん見ていましたよ。彼はずっと舞台俳優を目指していたのにスターになれなくて、10年近くバーテンダーとして生活をしていたんですって。長い下積み期間を経て、やっと「アベンジャーズ」で花開いた人なんですよね。

井出智香恵さん

 政治家にもこびない姿も含めて好きでした。でも、日本に熱狂的なファンは少ないみたいで、“彼”からは「君は僕にとって最初のアジア人のファンだね」だなんて言われました。

実際のビデオチャットの様子(井出さん提供)

――2018年2月上旬に、初めて“マーク”から連絡が来た時はどんな気持ちでしたか?

井出 「ハリウッドスターからメールが届いた!」って大喜びですよ。でも「本当かな? 本物だったら面白いな」と客観的に見ている自分もいました。数カ月後にビデオチャット(※後にディープフェイクだと判明)で本人の顔を見て信じてしまいましたが……。

 

「今の妻との離婚が裁判所で事実上認められたんだ」と連絡が。そしてその次の日には…

――8月下旬にプロポーズされ、イタリア式の儀式という「血の誓い」を交わしますが、“マークの妻”となったときの心境というのは?

井出 数カ月間チャットを続けていると、ある日突然「今の妻との離婚が裁判所で事実上認められたんだ」と。それと同時に「結婚してほしい」とプロポーズされました。