手塚(治虫)先生や藤子不二雄先生からもらった直筆サインもなくなく手放しました。手塚先生のサインなんて100万円を超えていたんじゃないかしら。さいとう・たかを先生のサインはコピーでしたけれど……(笑)。
――GUCCIとのコラボアイテムも手放してしまったそうですね。
井出 大阪にあるGUCCIの買取専門店に持っていって、14着で総額70万~80万円くらいになりましたね。店員さんに「これは売れるわけない」と言われたので「そんなはずない!」って喧嘩しちゃいましたが。結局ちょっと安く売ったけど、一ヵ月後に見に行ったら全部売り切れですよ。「あんたね~!」って思いました(笑)。
「初めは強く問い詰めても、結局お金を渡してしまう…」の心理
――井出さんの本を読んだのですが、マークからお金を無心されると初めは強く問い詰めているのに、最終的には井出さんが折れていますよね。結局お金を渡してしまうのはどんな心理なのでしょう?
井出 彼を好きだから助けたいという半面、長時間のやり取りに疲れてしまうんです。漫画の締め切りに追われているときにガタガタと連絡が来るのですから。全く単純ですけど、やり取りを終わらせるには、お金を渡してしまったほうが早いという気持ちもありました。
一種の宗教というか、マインドコントロールですよね。マークは教祖みたいなもの。結婚してすぐに「日本人らしくなんでも夫に従うのが理想の妻だ」とマークに言われたんです。だからこそ、私は文句を言わない貞淑な妻を演じた面もあると思います。
〈2018年から3年半にわたり、マークやその友人を名乗る詐欺グループから総額7500万円を騙し取られた井出さん。公共料金やローンの支払いも滞り、家族や友人から借金を重ねた。2021年、異変に気づいた長女や旧知の出版関係者から諭され、ようやく“偽りの愛の夢”から覚めていく。〉
――結果的に、娘さんがマークから送られてきた身分証に不審な点を見つけ、詐欺であることを明らかにしました。詐欺に遭っていたと分かった時はどんな気持ちでしたか?
井出 矛盾点を突きつけられても、最初はなかなか認められませんでした。詐欺だと受け入れたのち、思わず自宅マンションのベランダから地面を見下ろしました。でも、「漫画みたいに血がバーッと飛び散って迷惑がかかるし、そもそも葬式代も出せない」と踏みとどまって。次第に、「ああもうお金を払わなくていいんだ。美味しいものを食べられるんだ」と解放感が背中から湧き上がってきたんです。