嫁姑問題や不倫、ご近所トラブルといった“泥沼”の人間ドラマを、過激な性描写とともに描き出す「レディースコミック」。この世界で40年以上前からトップに君臨し、“レディコミの女王”と呼ばれているのが井出智香恵さん(74)だ。
壮絶な嫁姑バトルを描いた代表作の「羅刹の家」はテレビドラマ化され、大きな反響を呼んだ。レディコミ作家として売れっ子になる一方、私生活では夫によるDVに耐え忍んできた。
最近は、国際ロマンス詐欺に引っかかり、3年半で7500万円を騙し取られたことを赤裸々に明かした井出さん。その波乱万丈な半生を聞いた。
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「私は昔から顔のいい男に弱かったんです…」
――後に暴力を振るう元夫と出会ったのは新幹線の車内だったそうですね。どんな出会いだったのでしょうか?
井出智香恵さん(以降、井出) 私は当時、「週刊セブンティーン」(集英社)で漫画を描いていて、そこそこ人気があったのに、編集長が変わるタイミングでスパッと契約を切られてしまったんです。それがすごく悲しくて、3日間の傷心旅行に出かけました。
小郡から新幹線に乗って、北陸をぐるっと回って、再び新幹線で東京まで帰る途中に彼が名古屋から乗ってきたんです。ボックス席に私と電気会社の社員みたいな男性二人が座っていて、空いていたのは隣の窓側の席でした。でも、そんなところにわざわざ入ってこないでしょう? 他の席もたくさん空いているのに、「ちょっとすみません」ってするっと入ってきたんです。
――偶然隣り合わせた、というよりは初めから井出さんを“狙っていた”感があったんですね。
井出 実際、後から聞いたら「物にしたろ」と思ってわざわざ入ってきたみたい。私も初めは知らんぷりして本を読んでいましたけれど、そのうち話しかけられますよね。そのときに「男前ないい男やなあ」って。私は昔から顔のいい男に弱かったんです……。
彼は三重県で前の奥さんと離婚して、東京の別の女のところに行く途中だったそう。浮気した挙げ句、子どもをすごく殴って、奥さんの堪忍袋の緒が切れたみたい。その時は何も知りませんでしたけれど。
「テニスに行くから会えない」「そんなの行かずに俺と会え」
――DVの“前科”があったわけですね……。出会ってからすぐ結婚に至ったのでしょうか?
井出 住所と電話番号を教えたら、翌朝に早速電話が来ましたね。「テニスに行くから会えない」と伝えると「そんなの行かずに俺と会え」って言うの。3日目にはうちに入り込んで帰らない。その図々しさと口の旨さに圧倒されてしまいました。