「離婚するなら道連れにして死ぬ」
――離婚にも長い時間がかかったそうですね。
井出 離婚したいと言うと、台所から包丁を持ってくるの。寝ている子どもの首元に近づけて、「離婚するなら道連れにして死ぬ」と言って。とにかく私の収入が目当てだったんでしょうね。ルーフポルシェとかランボルギーニとか高級車を次々と買い替え、それとは別に月に300万円も使っていましたから。
私が「離婚しない」と言うまで、子どもたちは2日間くらい食事も与えられずにずっと正座させられて。お芝居みたいでしょう? そんなことをあの男はずっとやっていたんです。最終的には、3000万円近い借金を肩代わりする約束でやっと離婚に応じてもらえましたが。
「最近は幼稚園生の孫にも私の漫画を読まれそうで困っているんです(笑)」
――夫への溜まりに溜まった恨みは代表作「羅刹の家」に昇華されたそうですね。
井出 「羅刹」は夫への憎しみをすべて描いた作品ですね。当時は「売れなくなったら嫁姑問題を書け」と言われた時代。でも、その頃の作品をよく読んでみると、コミカルで面白いだけで最後は丸く収まるものばかり。私がグワーッて鬼のような作品を描いたからみんなショックだったと思いますよ。
家庭内の諍いって軽く見られているけど、当事者からすると本当に切実な問題ですよね。ここで私が書かなきゃ誰が書く!という使命感にかられていました。お陰様で「羅刹」は“嫁姑問題のバイブル”と言われています(笑)。
――レディコミはドロドロとした人間関係や性描写も多いですが、お子さんたちは井出さんの作品のことは知っていたのですか?
井出 小学生くらいの頃からこっそり読んでいたみたい。ずっと知っていたから何とも思わなかったって。私の方も初めから「バレてもしゃあねえ」っていう感じでしたし。なにか言われたとしても「あんたらの飯のために描いてるんだよ!」って言えば終わりですよ(笑)。ただ、最近は幼稚園生の孫にも私の漫画を読まれそうで、流石に困っていますが(笑)。
――井出さんにとって漫画は生活の糧でもあり、辛い現実から一時的に離れる手段でもあったのでしょうか?
井出 子どもたちを育てるために、離婚後はさらに漫画に没頭していきましたね。描き始めると、物語の中に入り込んでしまうんです。漫画の世界に入ってしまえば、ヒロインにもなれるし、どの登場人物にも感情移入できるから全然寂しくない。
あまりにも純粋すぎてすぐ騙されるから、周りには「大人少女」って呼ばれます。ロマンス詐欺に遭ったのも、そういう自分の性格のせいもあるんでしょうね。
撮影=荘司結有
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