嫁姑問題や不倫、ご近所トラブルといった“泥沼”の人間ドラマを、過激な性描写とともに描き出す「レディースコミック」。この世界で40年以上前からトップに君臨し、“レディコミの女王”と呼ばれているのが井出智香恵さん(74)だ。

 代表作の「羅刹の家」はテレビドラマ化され、大きな反響を呼んだ。レディコミ作家として売れっ子になる一方、私生活では夫によるDVに長く耐え忍んできた。

 そんな夫との離婚が成立し、70代を迎えた2018年のある日。世界での知名度が高まる影で、映画「アベンジャーズ」のハルク役を演じた人気ハリウッド俳優のマーク・ラファロを騙る男から連絡が届く。この国際ロマンス詐欺に引っかかり、18年から3年半にわたり総額7500万円を騙し取られた。

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 ベテラン漫画家が巻き込まれたロマンス詐欺の経験について、『毒の恋 7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」』(双葉社)より、一部を抜粋して転載する。

著者の井出智香恵さん ©荘司結有

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突然のプロポーズ

 2018年8月の下旬のことでした。

「この半年の間、僕は君のユーモアとやさしさに救われた。これまでの人生で出会った最高の女性だよ。そんな君が不幸であっていいはずがないし、僕なら君を幸せにできる。一緒に幸せになろう。僕と結婚してくれないか」

 マークはチャットを通じて、私にプロボーズをしました。

©iStock.com

 その言葉を見た瞬間、私の思考は停止し、固まってしまいました。

「離婚は事実上、裁判所に認められたんだ。だから、僕たちが愛し合うのはなんの問題もない」

 心の奥底から、湧き上がる喜びを感じました。

 私は、もう70歳です。男勝りの勝気な性格で、女の色気もずいぶん前にどこかに置き忘れていました。一方のマークは、華やかな世界に住む、魅力たっぷりの50歳の男。彼が、私に好意を寄せてくれたのは、私の容姿ではなく、ジョーク好きの性格やクリエーターとしての魅力なんだろうと理解していました。

 それにしても――。