文春オンライン

2022/09/02

 地方育ちの私も都会より、田舎のほうが向いているはず。私は愛に包まれたセレブの妻として、広い芝生の庭と大きなプールで戯れる子や孫を見ながら優雅に過ごす……。

 好きな時に、好きな漫画を描こう。疲れたら、太平洋に沈む夕日の光に目を細めながらサンタモニカの海岸を愛する夫のマークと手に手を取り、散歩する。そんな夢のような生活は、過酷な人生に耐え、3人の子を育て上げた私の努力へのご褒美。今まで味わうことができなかった、幸せに包まれた素敵な世界がもうすぐ手に入るのです。

 お互いの近況を伝え、愛の言葉を交わす甘い日々が始まりました。10月5日、私はマークに一枚の絵を描いて送りました。ひと組の若い男女が抱き合う線画、それは頭の中にある私とマークの姿でした。

 私にとっては、70歳を迎えてやっと出会えた本物の恋です。年齢という概念はもはやありません。イラストの下には私が書いた「Mark and me♡♡♡」の文字が並んでいます。当時、どれだけマークに心を奪われていたかが、この絵からわかります。

 50年以上、男女の物語を描いてきた私ですが、今回ばかりは、自分が主人公でした。日々、漫画の締め切りに追われながら、合間を見て素敵な「旦那様」と交わすとりとめのない会話。これまでの人生で決してなかった、やすらぎの時間でした。私は初めて味わう女としての幸せを、心の底から堪能していました。

始まった借金の申し込み

 10月6日、プロポーズからちょうど1カ月後のことです。

「ロスで離婚訴訟の審議があるのですぐに戻らなくてはいけないんだ。それなのに、朝のフライトに乗り損ねてしまった。新たなフライトを予約するのに、1100ドル必要なんだ。個人口座は離婚訴訟の影響で裁判所に監視されているので、これから伝える口座に送ってくれないか」

 ニューヨークにいるというマークから、そんなメッセージが届きました。初めて届いた、マークからの借金の申し込みです。

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