文春オンライン

2022/09/02

 周りが見えなくなっていた私は、漫画家の命でもあるアシスタントたちに給料の支払いを延期してもらいました。電気、ガス、水道の公共料金の支払いは滞納するようになりました。そうしてひねり出したお金をマークに「貸し」ました。

 もう滅茶苦茶です。異常な世界です。それでも私は、「今は我慢のしどころね。マークの口座が使えるようになる、18日になれば、貸したお金は返ってくるんだから」とのん気に考えていました。愛する人のためだから、と思う一方、「マークは、ハリウッドの大スターで大富豪だから問題はない」と信じきっていたのです。

 すでに私は自分を見失っていました。

そして訪れた返済期限の日

 返済期限の10月18日が来ました。でも、マークは1円のお金も返してくれませんでした。

「すまない。口座の凍結が解かれないんだ。今は返せないが、大丈夫。すぐに返せる。僕はマーク・ラファロなんだ」

 それどころか、新たな借金を申し込んできます。

「大変ね。私がなんとかするわ」

 この時の私は、素直にその言葉を信じていました。でも、現金どころか、手元にある金目のものはあらかた売り払い、彼に貸せるお金はありません。

 困り果てた私は、長男のマサヒロに頭を下げ、200万円を借りることにしました。マサヒロは何も聞かず、お金を貸してくれました。息子が社会人となって必死に貯めたお金の一部です。それをわかっていながら、私はそのほとんどを、右から左にマークに渡してしまいました。

 今なら、わかります。詐欺師がお金を返すわけはありません。ですが、当時の私は「彼が困っているのだから」「私たちの将来のためだから」「それに、返してもらえるのだから」と本気で思っていました。

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