レディースコミックで大躍進も「通帳や印鑑は夫に奪われていたから、実際どれくらい稼いでいたかはわからないの」
――家庭では暴力に悩み、生業としてきた漫画も奪われる。逃げ場がないですよね。
井出 夫の暴力事件の噂が広まって、大きな出版社との仕事はできなくて。短い読み切り連載は細々と描いていましたけど、食べていけるほどの稼ぎはなかったですね。
でも、しばらくしてレディースコミックが盛んになって、これなら私も描けると思ったんです。ちょうど双葉社が「JOUR」を創刊したので、編集部に連絡をしたら、たまたま編集長が知り合いで「ぜひ描いてほしい」と。初めから巻頭をもらえて、仕事もどんどん増えていったんです。
――十分な収入を得られるように?
井出 通帳や印鑑は夫に奪われていたから、実際どれくらい稼いでいたかはわからないの。当時の原稿料は1ページで2万5000円くらい。最盛期には月に400ページは描いていましたから、1カ月で1000万円、年間で1億は稼いでいたんじゃないかしら。3日おきに来る締め切りに追われていましたね。
殴る夫を止めに入った長女が殴られ流血…「どれだけ殴っても捕まらないと夫は分かっていたんでしょうね」
――子育てと漫画の両立は大変そうですが……?
井出 もちろん子どもたちにはお手伝いさんを雇ってね。夫に家計を握られているから、私や子どもたちの洋服の一つも買ってもらえなくて、汚いつなぎを着たまま運動会とかに行くもんだから、周りのお母さんたちはヒソヒソと噂話をしているんです。
でも私は全く気にしませんよ。私が成し遂げていることをあなたたちにはできないでしょうと(笑)。
――DVの概念もない当時、周りに状況を理解してもらうのが難しかったことはありませんでしたか?
井出 一番ショックだったのはね、夫が私を殴っているのを止めに入った長女が「バーン」って殴られたんです。まぶたからダラダラと血が流れたから、慌てて救急車を呼んで、救急隊の人に「夫が殴った」と説明しても「はあ……」と浮かない返事ばかり。当時は「民事不介入」で家庭内暴力には何もしてくれない。どれだけ殴っても結局は捕まらないと夫は分かっていたんでしょうね。