そのうち身体の関係になりますし、子どもができたので結婚しましょうと。私は当時31歳で売れ残っていたもんですから、親戚一同大喜びですよ。彼は萬屋錦之介に似た美男子でね。とにかくこの美しい顔の男の赤ちゃんがほしいと思ったんです。おかしいでしょう? 今となれば、その考え自体が愚かでしたね。
打ち合わせをしていた男性編集者に逆上した夫。そして仕事は来なくなり…
――結婚してから元夫からの激しいDVが始まったそうですね。
井出 どうしようもない男でしたよ。詐欺で大金をとられるより、ある意味辛かった。彼は本当に感情の浮き沈みが激しい人で、ある朝起きたら「チクショー」ってボソボソ話していて。びっくりして「どうしたの?」と駆け寄ると、「うるせえ!」って殴られたのが始まりでした。
正直言って失敗したなと思いましたね。でもそういう風に思っていることもすぐ感じ取って、あらゆる方法で自分から逃げられなくする。今思うと、子どもを先に作ったのもその一つだったと思います。
――井出さんの当時の担当編集者も殴ったとか。
井出 その頃はまたセブンティーンからお仕事を頂いて、男性編集者と一生懸命夜遅くまで打ち合わせをしていました。そこに帰ってきた夫が嫉妬で逆上して、編集者を殴りつけてしまった。その出版社とはしばらく音信不通になりましたね。大きな仕事がなくなって食えなくなり、東京のマンションを売り払って、夫の地元の三重県に引っ越したんです。
「なんでそんなにのろいんだ!」と子どもを叩き始め…過酷すぎる三重生活
――三重県での生活も過酷だったそうですが。
井出 「地元に戻ったら俺が食わせたる!」って息巻いていたのに、ますます働かなくなりまして。私は働きたくても編集者との縁を切られて漫画も描けない。ガス代も電気代も払えなくて、集金に来るたびにトイレに隠れててね。
夫は愛人を何人も作って、ついには外に子どもまで作ってしまった。でも、それより辛かったのは私と子どもへの暴力でしたね。
子どもが片付けをしていると「なんでそんなにのろいんだ!」って叩き始めて、片付ける場所を間違えるとまた叩くという繰り返し。酷いときは三角定規の角で殴るんです。彼は昔から柔術をやっていて、腕っぷしが強くてね。
私も左胸の肋骨を折られて、今でも痛むときがあるんです。
はっきり言って、何回あいつを窓から突き落として殺そうと思ったか……。窓の外には竹の塀があって、ここから落としたら突き刺さるかなと。悲しいけれど、そんなことばかり考えていましたね。