3年半もの間、毎日のように何時までに送金しないとという思いが頭の片隅にあったので。残高が減っていく預金通帳を眺めて、家族や友人からお金を借りて……沢山の人に迷惑をかけました。
「詐欺に遭うまで、私は家族の絶対君主でした」
――ご長男は自分の貯金を切り崩したり、消費者金融から200万円を借りて、井出さんに渡していたそうですね。お子さんたちから無心したお金を騙し取られ、関係性が悪くなるようなことは……?
井出 それが全然無かったんです。長男は「しょうがねえからまた金貯めるよ」って。長女は警察からの聞き取りにも付き合ってくれるし、逆に関係性が深まった気がします。
詐欺に遭うまで、私は家族の絶対君主でした。
酷い父親から子どもたちを救って育ててきたことで、彼らも圧倒的に私を慕っていましたし、彼らの高校とかもみんな私が決めたんです。今思えば歪な関係ですよね。子どもたちに迷惑をかけたことで、自分の傲慢さにも気づけました。
――井出さん自身もまだ多額の借金を抱えているそうですが。
井出 全部で5000万ほどですね。まずは滞納していた税金をきちんと納めたい。生きてる限り漫画を描き続けて、責任を持って返済したいと思っています。
「正直、マークとのやり取りも『ネタとして面白いわ』っていう気持ちもありました」
――早速、書籍と漫画で一連の国際ロマンス詐欺事件を描きました。元夫への憎しみをぶつけた「羅刹の家」といい、辛い出来事を“ネタ”に昇華できることに、たくましさを感じます。
井出 漫画がなければここまで生きてこれなかったかもしれません。排泄作用というのかな? 原稿用紙に全部吐き出すことで、人生のバランスを保ってきたんでしょうね。
――正直、マークとのやり取りも「ネタとして面白いわ」っていう気持ちもありました?
井出 えーっとすみません、かなりありました……(笑)。騙されているかどうかに関係なく、このやり取りを描いたらウケるんじゃないかなって。こういう結末を迎えるんじゃないかという予感もなんとなくありましたから。
マークが好きだからお金を送ってあげたい自分のほかに、どこかで俯瞰している自分もいたんです。でも、突き進んでしまう。愛が勝る日もあれば、騙されているかもと思う日もあって、でも結局最後には愛を選んでしまうんですよね。
――その愛というのは、家族や漫画では埋められないものなのでしょうか?