「血の誓い」ではお互いの指先を傷つけて、その血を重ねることで永遠の愛を誓うんです。仕事場にある千枚通しで指を刺したけど、なかなか血が出てこなくてとても痛かった。お互いの指をパソコンの画面越しに重ね合わせました。
でも、本当に温かい気持ちになれたのは、少し経ってから。血の誓いをしてからマークには「ハニー」と呼ばれるようになったし、マークの仲間にも「奥さん」と呼ばれるんです。
「飛行機に乗り損ねたので、1100ドルを振り込んで欲しい」
〈結婚の儀式である「血の誓い」からちょうど一ヵ月後の2018年10月6日、マークを名乗る男から借金の申し込みが始まった。ロスで妻・サンシャインとの離婚訴訟の審議に参加するためのフライトに乗り損ね、新たなフライトを予約するために1100ドル(約14万円)を指定する口座に振り込んでほしい――との内容だった。〉
――マークからお金を無心された時、彼を疑う気持ちはなかったのでしょうか?
井出 初めはもちろん「あんたは天下のマーク・ラファロでしょ? それっぽっちのお金も出せないなんてどういうこと?」って疑いましたよ。でも、3人の子どもたちの養育費もかかり、奥さんと離婚で争っていることは秘密にしていると。私も子どもを育てた身で共感できたし、その時は14万円と金額も出せる範囲のものでしたから、言われるがままに送金してしまったんです。
〈この初めての送金を皮切りに、堰を切ったように借金の申込みが続く。詐欺師・マークいわく「離婚訴訟中は自分の財産は裁判所に差し押さえられている」。ギャラが現金化されないからお金を貸してほしい、お金を返すのに必要な手数料を立て替えてほしい――。井出さんは自身の貯蓄を使い切り、経済的に追い込まれた。〉
――マークへの送金を続けるために、デビュー当時から大切に保管していた生原稿をすべて売ってしまったと聞きました。
井出 レンタル倉庫にこれまで描いた6万~7万ページの生原稿を置いていたんです。大英博物館にある「ビバ!バレーボール」の生原稿を取り寄せて100万円で売ることを条件に、倉庫を丸ごと300万円で買い取ってもらって。「ビバ」の原画は海外のオークションサイトに出品されたみたい。