筆者は昨年4月頃より一貫して、米国による北朝鮮への先制攻撃は、まずないと繰り返し断言してきた。他方、「核実験をすれば米国は攻撃する」、もしくは「春には」、「夏には」、「クリスマスに戦争になる」等と主張する「専門外」の論者が生ける屍のように登場してきたが、そうはならなかった。
本稿では、北朝鮮への先制攻撃は現時点ではありえないことを論ずる。
米海兵隊司令官が「敵はロシアにあり」と明言!
まず、押さえておかねばならないのは、米国がグローバルな国益を抱えた国家であるという点だ。したがって、中東、欧州、ロシア、南米などの情勢にも目配りをする必要がある。特に、中間選挙や弾劾裁判を見据えた場合、トランプ大統領は自らの政権支持層たるエネルギー産業と環境規制撤廃を強硬に主張する保守派に忖度せざるを得ない。
これは閣内の主要ポストが、エネルギー産業出身のティラーソン国務長官、南部保守派のペリーエネルギー長官及びプルーイット環境長官によって占められ、特に後者2人がパリ協定(温暖化対策の国際合意)を含む国内外の環境規制の撤廃と国内化石燃料の採掘促進を推し進めていることからも明らかである。
実際、トランプ大統領は、よりにもよって保守派の集会で環境規制を重要だとする「本音」を漏らしてしまったり――もともとの彼は民主党支持者のニューヨーカーである――、その娘のイヴァンカ及び娘婿のクシュナーがパリ協定残留を懸命に説得したとされるなど、明らかにパリ協定離脱には及び腰であり、最後まで逡巡していた。が、最終的には離脱を明言した。
他の事例からも明らかだが、二者択一を迫られた場合に、トランプ大統領はエキセントリックな発言とは裏腹に、実は自らの主義主張やレトリックよりも、その場その場で政治的な基盤を強化する方を選んでいる。
となれば、トランプ大統領の決断としては、エネルギー産業の意向、特に資源価格の混乱を回避することが相対的に重要になる。また、国民世論への影響や政権の出発点を考えれば、対テロ戦争こそが重要になる。そして、トランプ政権の親ロ姿勢に批判的な民主党及び共和党主流派の存在を考えれば、彼らを宥めるためにある程度の対ロ強硬の「芝居」は行わねばならない。
実際、そうした兆候はある。例えば、トランプ政権初の国家安全保障戦略が公開された。その議題は、中ロ、テロ、イランの脅威を強調したものだった。
国家安全保障戦略における言及は、中国23回、ロシア17回、ISIS14回、イラン12回に対して北朝鮮は13回であった。ちなみに、オバマ政権の2010年に23回、2015年に13回言及された気候変動への言及は0である。アメリカは北朝鮮に大規模な先制攻撃を行う前に、やるべき宿題が多いことがわかる。