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可能性があるとすれば「非殺傷」系の攻撃

 米国による北朝鮮への先制攻撃は、あまりにも課題が多く、現時点では現実味に乏しい。しかしながら、海上封鎖、電磁パルス攻撃、ミサイル実験妨害といったオプションならば、今後の展開としてありえなくもない。アメリカの専門家や当局者の間でも議論が進められている。あまり、我が国では指摘されていないシナリオなので論じておく。

 第一は、トランプ政権の強固な支持層である共和党保守派とそのシンクタンクたるヘリテージ財団のメンバーが推す海上封鎖である。中国などの不十分な対北朝鮮経済制裁の状況をかんがみて、米海軍と同盟国が直々に北朝鮮周辺の海域を封鎖し、船舶の臨検(強制的な停止や船内検査)や立入禁止を実施するという展開である。昨年11月28日にはティラーソン国務長官も、この可能性を示唆した。

 海上封鎖は、北朝鮮への究極的な経済制裁になるだけでなく、中国へのプレッシャーという意味でも有用である。なぜならば、海上封鎖は米海軍が中国近海に展開することを意味し、これは中国にとっては耐え難い事態だからである。その意味で、今後、対中カードの一環として、実施が強く「示唆」される可能性は高いだろう。

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 第二は、電磁パルス(EMP)攻撃である。「National Interest」誌(2017年12月11日)など、複数の米メディアが報じたもので、炸薬による爆発などによって強力な電磁パルスを発生する弾頭をトマホークミサイル等に積載し、北朝鮮に打ち込む。電磁パルス攻撃は、電子回路だけをターゲットにするので、非殺傷で北朝鮮の核ミサイルや指揮通信システム等を破壊・無力化できるというわけだ。

ミサイル巡洋艦から発射されるトマホークミサイル ©U.S. Navy

 この兵器は未だ運用段階にはないが、空軍当局者がメディアに語ったところによれば、数日以内には準備可能であり、すでに米空軍は大量破壊兵器施設への電磁パルス攻撃をシミュレートした他、NBCニュースの昨年12月4日の報道によれば、8月にホワイトハウス内の会議でも電磁パルス兵器の投入が検討されたという。

 最後は、北朝鮮によるミサイル実験に対する妨害である。ミサイル防衛システムの発動だけでなく、すでに実施しているとも言われるサイバー攻撃も含まれる。これにより、北朝鮮の技術的蓄積――特に再突入能力――を防ぎつつ、断固たる圧力をかけるというものであり、ゲーツ元国防長官など一部の論者が主張している。サイバー攻撃は匿名性が高く、報復を回避できる可能性が高いため、すでに一部では始まっていても不思議ではない。

終わりなき日常は続く

 ただし、「非殺傷系攻撃」として挙げた3つのオプションにも課題はある。海上封鎖については、その「示唆」が対中カードとして使用されるだろうが、実行に移すのはオペレーション的に難しいからだ。海上封鎖には多くの艦艇が必要であり、海上自衛隊の協力は不可欠である。だが、平和安全法制によってもなお、我が国は公海上での「臨検」は法的にできないままだからだ。これでは海上封鎖の実施は難しい。

北朝鮮によるミサイル実験は今後も続くのか ©getty

 電磁パルス攻撃も同様だ。複数の米国の専門家が「北朝鮮側は巡航ミサイルが撃ち込まれた瞬間に、その弾頭が何であるか判明する前に報復を実行するだろう。そもそも非殺傷の電磁パルス兵器なら反撃されないと考えるのは希望的観測である。またすべての核兵器を無力化するのも不可能」と指摘するように、実効性に乏しい。

 ミサイル実験の強制中止もリスクが高い。サイバー攻撃は別として、物理的な迎撃に失敗した場合、ミサイル防衛システムへの信頼性低下や北朝鮮からの報復を招いてしまうからだ。

 以上をまとめると、米国が北朝鮮に対して、イラク戦争型の大規模な先制攻撃なり空爆をしかける可能性は低い。限定的な攻撃にしても、北朝鮮への敵意をむき出しにするリスクを許容する事態は考えにくい。徐々に米国の選択肢が、攻撃か北の核容認かの二者択一へと絞られているのは事実だが、当面は北朝鮮を取り巻く不愉快な「終わりなき日常」が続きそうである。