海兵隊司令官のロバート・ネラーは、2017年12月にノルウェーの部隊を訪問し、「間違っていることを願うが、今や戦争が迫っている。君たちはここで非公式で政治的な戦争(注:いわゆるロシアによるハイブリッド戦争)を君たちのプレゼンスを示すことで戦う」と演説し、次の主要な戦域はロシアと太平洋であり、中東での戦いの後は東欧を重視すると述べたという。
また、同年12月22日には、ついに「殺傷力を持った強力な兵器」をウクライナに提供するとトランプ政権は声明を発した。過日のエルサレムへの米大使館移転宣言も、中東重視の一環という文脈から読み解くべきだ。
オバマ大統領のアジア重視戦略もかけ声倒れに終わってしまったが、米国の外交政策がアジアや北朝鮮に向かおうとしても、中東やテロリストやロシアによって襟首をつかまれてしまうのである。
北朝鮮を攻撃する空母も戦闘機も足りない!
また、北朝鮮を攻撃しようにも、空母も戦闘機も足りない。昨年9月の拙稿「それでもアメリカが北朝鮮を攻撃しない5つの理由」でも、最低でも空母4隻以上が集結せねばならないが、せいぜいかき集めてレーガン、ニミッツ、ブッシュ、ルーズベルトの中から空母3隻が限界であると指摘し、実際その通りになった。
昨年11月に展開したのは空母3隻であり、それも日本に常駐しているレーガンに、中東から帰還するニミッツと、米本土から中東に進撃するルーズベルトが瞬間的に合流しただけだ。現在、西太平洋にはレーガンが存在するのみである。
米海軍には空母が11隻しかなく、その内、平時に展開できるのが3~4隻であり、1隻は中東に張り付けるために余裕がない。しかも、空母は定期整備後のすべての訓練を終了した状態であっても、一定期間の任務継続後には小休止のために寄港する必要がある。
もちろん、本気で戦争を決意すれば空母の整備・練成を急ピッチで行いイラク戦争時のように6隻を展開させるだろうが、そうした兆候は見られない。現状ではまず不可能だ。逆に言えば、空母の整備状況が変われば、本格的な開戦が近いことを意味している。
もう一つの理由は、空母艦載機が果たして6隻分あるのか、という点である。軍事専門紙「ディフェンスニュース」が昨年2月に報じたところによれば、全海軍の航空機の53%が予算不足による整備及び部品不足により稼働不能に追い込まれている。とりわけ空母艦載機の主力を担うF/A-18戦闘機は62%が稼働不能になっており、パイロットの技量保持も難しくなっている。
また、トランプ政権の予算執行はこれからとはいえ、戦闘機の稼働率は予算が付いたところで瞬時に回復するものではない。部品製造やその配給、人員の手当て等々の段階を経なければ稼働できないからである。