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 そこまではいかなくとも、番手が一つでも上であれば、その人に言い返すことだってできやしない。さっきも記述したように、ちょっと話しかけるだけでもちゃんと断らなければならないルールがある。

 なかには「面倒くさいからそういうのはいいよ」と言う先輩だっているだろう。だがあまり勝手なマネはできない。もっと上の方から、「おい、指導になんないからさ。ちゃんと注意しろよ」と怒られる。番手が上の者は下の者を指導して、ここのルールを叩き込まなければならないことになっているからだ。互いに本音では「もういいよ」と思っていても、なかなかそういうわけにもいかない。本当にいちいち、面倒なことばかりの世界なのだ。

 この「番手がすべて」というルールは、刑務官だって公認である。むしろそこをちゃんとするよう指示される。ただ、「上が下を指導する」というルールは実は、「イジメの温床」という実態もある。そこのところは次で詳しく述べるが、言ってみればイジメがはびこる環境を、刑務所側が作っているようなものだった。

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なぜ刑務所でイジメがなくならないのか?

 それともう一つ、このルールで忘れてはならないのは、「番手の序列はあくまで工場に入った順番」ということだ。工場を移動になったらまた最下位に逆戻り。一から「番手の積み上げのやり直し」ということになる。

刑務所時代は絵を描くことも趣味にしていたという ©文藝春秋

 だから、なかなか次の新人が工場に来てくれないと、ずっと最下位のままという悲惨な目にも遭う。まあこれも後で述べるが、時おり工場内の番手が入れ替わる「まくり」という事態もあるのだが。

 それと、前の工場でイジメていた相手が他の工場に移り、その後に自分もそこに行くことになってしまったら、悲惨だ。後から行っているから、そいつより下の番手になってしまうからだ。前の仕返しとばかりにヒドい目に遭う。だからそこを気にするのなら、イジメなんかやめた方がいいのだが、実際にはなくなることはない。

アウトローの哲学 レールのない人生のあがき方

後藤 祐樹

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