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「いい大学、いい会社に入って出世が幸せ」ではない ”ジョン・ロールズ”的世界の実現を目指す一人の挑戦

2022/10/11
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じっくり時間をかけて「対話」を重ね、オーダーメイドの支援を

──「コモレビ」のサービスの特徴やこだわりを教えてください。

森本 コモレビでは、利用者さんとの「対話」を重視し、一人ひとりの「ありたい姿」を共に描きながら、その実現に向けたさまざまなサポートを柔軟に提供していくことを目指しています。

 精神科訪問看護のサービス提供実態を調べたところ、一般的な精神科訪問看護サービスでは、薬の飲み合わせや副作用などの服薬チェック、体調確認などを中心に、比較的短時間で訪問が終わるケースも少なくないようです。

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 これに対しコモレビでは、標準的な訪問時間を40分と設定し、対話を重視した訪問看護を提供しています。スタッフとの信頼関係を築きながら支援を行えるよう、利用者さんのお話をじっくりお聞きする時間を大切にしています。
 

──森本さんは東京大学で政治哲学を学び、ご卒業後は大手のコンサルティング会社に就職されています。一般的には「エリートコース」と言われるような経歴ですが、なぜメンタルヘルス領域を選んだのですか?

森本 自分では「エリートコース」と思ったことがないので、あらためて言われると、そんなふうに見えるのかと恐縮してしまいますね。

 そもそも僕がコンサルティング会社に就職したのは、いつかジョン・ロールズ的な世界観を実現するための実力や経験を身につけたいと思ったからなんですよ。「修業」のつもりで5年間働いたあと、世界の衛生・環境・健康に貢献しているサラヤ株式会社に入社して、ウガンダで衛生用品の普及に携わりました。

©三宅史郎/文藝春秋

 その後、家族の事情で帰国することになり、友人が起業した不登校・中退・ひきこもり経験のある人たちの学習支援の会社運営に携わりました。

 アフリカの医療衛生というフィールドからは離れたものの、ここで日本におけるメンタルヘルスの領域に、さまざまな社会的要因によってもたらされる格差や不公正の問題があることに気がついたんです。この不公正を解消するための方法を模索するうちに、精神科訪問看護サービスに可能性を感じ、コモレビを立ち上げることになった、という経緯です。

「世界中の誰かと人生を交換してもいい、と思える社会を」

──ジョン・ロールズといえば、人種やジェンダー、貧富の差など、生まれながらに違いが著しい格差につながる社会は正義にかなったものではないと説いた『正義論』が有名です。森本さんの考える「ロールズ的な世界観」というのは、具体的にどういうものですか?

森本 僕はロールズの哲学を「目をつぶって世界中の誰かと人生を交換しても、その人生もいいなと思えるのが、真にいい社会である」と解釈しているのですが、大学時代にアフリカの医療衛生を支援するNGOのインターンに参加して、目をつぶって交換できないほどの強烈な不公正な世界を目の当たりにして、激しい衝撃を受けました。

 でも同時に、この不公正をもたらしている社会課題を継承し、僕が考えるロールズ的な世界観を実現するには、自分があまりにもスキルも経験も不足しているという現実も痛感したのです。
 

 そこで、修行のつもりでコンサルティング会社に就職し、そのあと、アフリカで石鹸やアルコール消毒品を浸透させるビジネスを展開していたサラヤに採用していただき、スキルと経験を重ねました。