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──森本さんが考える「いい社会」とはどんな社会ですか?

森本 病気になっても、またその影響で仕事や人とのつながりが一時的に失われたとしても、誰もが必要なサポートを受けられて、「ありたい姿」に向けて歩んでいくことができる社会インフラが確立された社会、ということです。

 これだけ多様性がキーワードとして注目されながら、まだまだ日本では「いい大学に行く」ことや「大企業で出世する」ことが幸せ、というムードが強いように思いませんか? 「いい大学に行って、いい会社に入って出世するのが幸せ」というのは、あくまでひとつの価値観であって、絶対的な評価基準ではありません。

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 どこに住んでいてもどんな経済状態にあっても利用できる精神科訪問看護の「対話サービス」を普及させることで、ほかにもいろいろな生き方や価値観があるとみんなが当たり前に認め会える社会インフラをつくっていけたら、もっと「いい社会」に近づけることができるのではないかと思っています。

©三宅史郎/文藝春秋

 いまはまだ事業所のある新宿から事務所のある東京都心部のみを対象としているので「インフラ」を口にすることさえおこがましいのですが、より多くの人にコモレビの支援を提供できるよう、サービスを拡大させていけたらと考えています。

さまざまな利用者の「ありたい姿」を実現できれば

──サービスを開始してから1年半が立ちました。目指す世界には近づけていますか?

森本 まだまだです。でも、「カウンセリングを受けようと思ったけれど、お金がなくて諦めていた」というメンタルの悩みをおもちの方が、「(保険適用で自己負担の少ない)コモレビなら続けられるのでありがたい」と、継続的にサービスを受けてくださっているケースもあり、励みになっています。

©三宅史郎/文藝春秋

 プレッシャーと過労でうつ病になって休職に追い込まれた20代女性のケースでは、週に1度、40分の訪問からスタートし、何がプレッシャーになっているのか、自分を苦しめている思考パターンは何かということを対話のなかで少しずつ探りながら思い込みと不安を手放していきました。この方は最終的に職場復帰を果たすことができ、来月か再来月にはコモレビの利用も卒業できるとみています。

 もちろんこれは利用ケースのなかのほんの一例であり、すべての利用者さんがこの方のように短期間で改善するわけではありません。それでも、フルタイムで勤務されている方から、求職中の方、あるいは精神疾患が原因で就労されていない方まで、さまざまな立場の方の「ありたい姿」を実現できればと、日々取り組んでいます。