出産前後に赤ちゃんの脳が損傷することで引き起こされる脳性麻痺。お腹の中で順調に育っていた赤ちゃんでも、出産時の少しのトラブルが引き金となって発症する可能性のある障害だ。
2009年には、日本医療機能評価機構から補償対象と認められれば、健康保険を元手に一時金と毎月の介護費用を合わせて総額3000万円が支払われる「産科医療補償制度」が制定された。そして今年1月に補償基準が緩和され、より多くの患者に補償金が行き渡ることとなった。
一方で、制度改定以前に生まれた脳性麻痺児の中には、補償が受けられないままの子どももいる。
「補償を受けられている家庭は、自宅のバリアフリー化や福祉車両の費用に充てているらしいんですが、うちは今を生きるので精一杯。もっと軽度な麻痺で認められている家庭も多いのに……」(大阪市に住む澤田さん)
置き去りにされた“狭間の世代”の実情に迫った。
◆
厳しい基準で行われる個別審査で対象外に
「コロナ禍で夫の収入も減ってしまって……。正直、この先どうやって生活していけばいいのか……」
悲痛な面持ちでそう語るのは、大阪市に住む澤田智佳さん(34)。夫(40)、長男(11)、長女(9)、そして重度の脳性麻痺児である4歳の次男、翔奏(かなた)くんとともに暮らしている。
「次男はほとんど寝たきりで、飲み込む力も弱いので胃瘻を作っています。入浴、食事、排泄など、日常生活のすべてに介助が必要です」
脳性麻痺は、手足の麻痺や体の反り返り、知的障害などが複合的に症状として現れる。原因がわからない事例もあるが、妊娠期~出産の際に胎児が低酸素状態に陥ったことで発症する場合もある。澤田さんにとっても、我が子が脳性麻痺児となることは予期せぬ事態だった。
「もともとは双子を妊娠していて、お医者さんからは順調と言われていました。ところが2週間後に定期検診に行くと、TTTS(双胎間輸血症候群)という症状で緊急入院することになったんです。その後転院して経過観察を続けていたところ、29週で陣痛が来てしまって……結局、緊急帝王切開で2人を出産しましたが、片方はすでに亡くなっていました」
脳性麻痺の発症には分娩時の対処が直結するため、産科医にとっての訴訟リスクも高い。「産科医療補償制度」創設の目的は、患者側と産科医側、両方の負担を減らすためだった。しかし、“分娩に関連して”発症したことが条件のため、通常の在胎週数よりも短い28週~32週で出産した場合は「個別審査」と呼ばれる通常よりも厳しい基準によって、補償対象にあたるかどうかが判断されてきた。
「私は29週で出産したので、個別審査に回されることになりました。ただ、審査の要件になっていた出生時の低酸素状況を示す数値が悪くなかったので、難しいとは言われていて……。実際に対象外という判断が出たあとは再申請という手もあったのですが、再申請では必要な書類をほとんど自分たちで用意しなければいけなくて。手間がかかりすぎるということで断念したんです」