「もし明日死ぬとしたら、何がしたい?」
私達が会話のきっかけを掴むためにしばしば口にする、ごくありふれた他愛ない質問だ。しかし、絵空事ではなく、その問いに現実として直面しながら闘病生活を送っている子どもたちが日本に約2万人いることをご存じだろうか。彼らの多くは制度の狭間で十分な支援を受けられないでいる。
大阪市鶴見区にある「TSURUMIこどもホスピス(以下、TCH)」は、LTC(Life-threatening condition)と呼ばれる生命を脅かす病気を患う子どもたちがやってみたいと思うことを叶え、その子たちの人生がより自分らしく、豊かなものになることを目的とする施設である。病状や必要性、緊急度を基準とする審査で承認された子どもたちとその家族は無料で利用できる。日中の個別利用や宿泊などの利用形態、内容、頻度などを、それぞれの利用者と密にコミュニケーションしながら、一緒になって練り上げていく。
一人の子どもが「雪で遊びたい」と
筆者が初めてTCHを訪れた時、子どもたちはちょうど中庭に降らせた人工雪で雪遊びをしていた。地域のライオンズクラブの協力を得て、企画から2年間の月日をかけ、実現にこぎつけたのだ。そのきっかけとなったのは、今は亡き一人の子どもが「雪で遊びたい」と口にしたことだったという。発案した子ども本人が雪を見られなかったことを残念に思う一方で、その子の思いが受け継がれ、そのようにして痕跡を残していくことに不思議な感慨も覚えた。
TCHを訪れた人は、病院にありがちな柵や貼り紙、ユニフォームや名札などが全く見当たらないことや、明るく開放的な雰囲気に驚くだろう。それもそのはずで、客観的に望ましい状態を目指す「治療」を目的とし、規則は多く楽しみは少なくなりがちな「病院」と、TCHとは明確に異なるからだ。
私も長い間障害児病棟に入院していたので、病院の窮屈さは多少なりとも分かるつもりだ。したいことをする自由は全くと言っていいほど無い。ゲームをすることはおろか、中庭に散歩に出ることすら厳しく制限されていた。看護師や療育担当者の機嫌を損ねないよう常に神経をすり減らすうちにどんどん自発性を奪われ、次第に無気力になっていったものだ。