約99%が“たまたま”脳性麻痺になったのに…
ところが、昨年決まった制度改定によって、今年1月以降に生まれた子どもたちからは個別審査が撤廃され、胎内に28週以上いた脳性麻痺児は基本的に全員が補償対象となることになった。その理由として、産科医療補償制度を運営する日本医療機能評価機構が発行したリーフレットにはこんな言葉が並んでいる。
《個別審査で補償対象外とされた児の約99%が、医学的には「分娩に関連して発症した脳性麻痺」と考えられる。》
《脳性麻痺の児と脳性麻痺が発症していない児のそれぞれの低酸素状況について分析したところ(中略)大きな差はみられませんでした。》
つまり、これまでに補償対象外となった事例にも「分娩に関連して発症した脳性麻痺」が数多くあり、さらに個別審査で重要視されていた低酸素状況は、脳性麻痺の発症の原因とはいえないということだ。
誕生日が1日違うだけで「3000万円か、0円か」
自身も個別審査で補償対象外と判定された脳性麻痺児の息子を持ち、現在は「産科医療補償制度を考える親の会」代表を務める中西美穂さんが語る。
「個別審査で除外された脳性麻痺児は、2009年の制度開始時から数えて約500人に上ります。個別審査の基準が不合理だったからこそ制度を改定するのに、その基準で弾かれた子どもたちは、2021年12月31日以前に生まれたからという理由だけで、何の補償もないままです。
脳性麻痺児は肢体が不自由な場合がほとんどで、家のバリアフリー化や装具にもお金がかかります。しかも、介護や付き添いが必須だとろくに働けないという親も多い。補償金があるかないかは死活問題なんです」
歯科衛生士の資格を持つ澤田さんも、週4日のパートのうち2日は午前中のみの勤務にしている。翔奏くんを療育施設やリハビリに連れて行く必要があるためだが、「経済的なことを考えると、本当はもっと働きたい」と言う。
「翔奏が0歳のときは復職するつもりで、保育園からも内定をもらっていました。でも『服薬があるので非常勤の看護師さんが出勤する日に登園を合わせてもらう必要がある』『胃瘻を作った場合は受け入れも難しくなる』と保育園から言われて、辞退するしかありませんでした。パートも当初10件以上応募して、面接に進めたのは1カ所だけ。少しの時間でも働きたくて今はもう1件パートを掛け持ちしていますが、この先も、フルタイム勤務や正社員になることは難しいだろうなと半ば諦めています」
さらに、11歳の長男や9歳の長女にも頼らざるを得ない状況になっている。
「夫は一日中働いているので、私が家事をしている間の翔奏の介助や、買い物中のお留守番を上の子たちにお願いしています。本当は自分のために時間を使いたいだろうけど……いわゆる“ヤングケアラー”の状態です。その上、休日に行きたいところに連れて行ってあげることも、気軽に外食に行くこともできなくて……」
長男は一時期、小学校を不登校になった。一見気丈に見える長女も、澤田さんら両親に対して“遠慮”している様子があるのだと言う。
「ごくまれに次男がいない時間があると、長女が普段では考えられないほど甘えてくるんです。やっぱり負担になっているんだろうなと心が痛いです。病院の短期入所などを利用してはいますが、交通費も馬鹿になりませんし……。働くことが難しいのはみんな同じだと思いますが、生まれた時期が違うだけで3000万がもらえる人もいれば1円も補助してもらえない家庭もある。どうにも、納得できません」