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「介護用車は500万円以上」“普通の生活”に必要な大金

 兵庫県に住む田中真由さん(36)は、夫(36)と3人の子どもと暮らしている。在胎29週で出産した長女の美羽ちゃん(9)は、重度の脳性麻痺だ。四肢や体幹が麻痺しているため首も据わっておらず、家の中では基本的に寝たまま過ごす。

 しかし、澤田さんと同じく出産直後の数値が悪くなかったため、産科医療補償制度の対象とは認められなかった。

「外での移動にはバギーや車椅子を使います。介護用の車なら車椅子に座らせたまま乗せられるんですが、新古車で500万以上するのでとても買えなくて、ファミリーカーで代用しています。ただ、本人を抱っこして助手席に乗せ替えなければいけない上に、車椅子も持ち上げてトランクに乗せる必要があるので、かなり辛いです。これからまだ身体も大きくなっていくと思うと……」

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美羽ちゃんを抱っこして車へ乗せる田中さん ©文藝春秋 撮影/山元茂樹
シートベルトの装着にも時間がかかる ©文藝春秋 撮影/山元茂樹

 脳性麻痺児は知的障害を併発している場合も多いが、美羽ちゃんには知的な問題は全くなく、田中さんたち大人の会話も理解できる。現在は介助の面から特別支援学校に通っているものの、仲が良い友達は上級生が多いと言う。

「少し前は『鬼滅の刃』がブームで、最近だとNiziUやK-POPアイドルが好き。ごく普通の年相応の女の子です。何がしたいとか見たいとか要望もはっきりあります。ただ、自分の意思で体を動かすことはほぼできないので、本人ももどかしいと思います」

夫が脳卒中で身体麻痺 W介護に限界

 美羽ちゃんの希望をなるべく叶えようと、つきっきりで面倒を見る田中さん。看護師として働く市内の病院の理解もあり、これまではなんとか生活を送ってきた。

「リハビリなどのために仕事をセーブしたい気持ちもありましたが、生活のことを考えて4年前ぐらいから職場に復帰しました。介護や家事は夫と分担して、子どもたちの送り迎えや土日の家事はやってもらっていたので、2人で働けばなんとかなるなと考えていたんです」

 ところが昨年10月、さらなる悲劇が田中さんを襲った。しばらく頭痛を訴えていた夫が脳卒中で倒れたのだ。救急車で運ばれ一命は取り留めたものの、小脳と延髄に特に大きなダメージを負った。手術とリハビリで3ヶ月入院したが、今も体幹や手足に麻痺が残っていると言う。

「最初は飲み込むこともできない状態でしたが、なんとか歩けるところまでは回復しました。でも、平衡感覚がやられてしまっていて、物を持って歩くことはできない。階段を昇り降りできるかどうかというレベルなので、車の運転も当然NGです。これまで夫の担当だった美羽の車への乗せ降ろしや一部の家事に加えて、子どもたちや夫の送り迎えまで、すべて私がやらなければならなくなりました」