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「いい大学、いい会社に入って出世が幸せ」ではない ”ジョン・ロールズ”的世界の実現を目指す一人の挑戦

2022/10/11
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ヤングケアラー、シングル・ペアレント…さまざまな境遇の方にメンタルケアを届けられるように

──精神科訪問看護サービスが社会インフラになることで、どんな未来が期待できると思いますか?

森本 たとえばシングル・ペアレントの支援をしているNPOと連携することで、経済的な問題や子育ての悩みでメンタルに不調を抱えている保護者の方にサービスを届けることができます。また、産婦人科と連携すれば、産前産後の妊産婦のメンタルケアをより手厚くすることができるかもしれません。

 さらに、教育機関や児童相談所などと組めば、ヤングケアラーの早期発見・早期支援や、保護者のメンタルサポートに貢献できる可能性もあります。

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 いまは人手も資金も不十分ですが、いろいろなところと連携することで、さまざまな社会課題解決に役立つと信じていますので、これからより連携を広げていきたいです。

公正な社会の実現に、少しでも貢献できれば

──そこまで社会の幸福を追求できる高潔さはどこから来るのでしょうか。

森本 僕は自分のことを「高潔」とは全く思っていませんし、「社会の幸福を追求」する活動に携わる人が「高潔」でなければならないとも考えていません。そもそも、社会の不公正を是正するための取り組みは「高潔」なんでしょうか?

 僕の根底にあるのは「不公正な社会を変えてやる」というシンプルな動機です。それはアフリカにいたときから今に至るまで変わりません。強いて言えば、公正な社会の実現に少しでも寄与できていると感じられるときに「喜び」を感じる性格なので、そういう意味では、メンタルヘルスケア領域での対話サービス活動は、むしろ自分自身の幸せのためともいえます。

 精神科医のなかには、もっと時間を割いて患者の話を聞いたり、薬や治療方針を検討したりしたいと考える医師もいますが、時間も人手も足りないと聞いています。そんななか、僕たちが医師の耳の代わりになって利用者さんの声を聞き、より医師との連携を深めていけば、これまで以上に幅広く柔軟なメンタルヘルスケアが可能になるかもしれません。

©三宅史郎/文藝春秋

 ゆくゆくは、自分たちが事業所を運営するなかで得られた知見をもとに政策提言なども行い、精神科訪問看護事業全体の「支援の質」向上にも貢献できたらいいですね。理想にはまだほど遠い現状ですが、がんばります。

「いい大学、いい会社に入って出世が幸せ」ではない ”ジョン・ロールズ”的世界の実現を目指す一人の挑戦

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