福岡県篠栗町のマンションで碇利恵被告(40)の三男・翔士郎ちゃん(当時5)が餓死した事件。21日、保護責任者遺棄致死や詐欺などの罪に問われた“ママ友”・赤堀恵美子被告(49)の裁判員裁判判決公判が福岡地裁で開かれた。これまで一貫して碇被告への洗脳や、生活保護費を騙し取ったとされる一連の容疑を否認してきた赤堀被告だったが、判決は求刑通りの懲役15年が言い渡された。
裁判で「指示はしていません」と語った赤堀被告。なぜ、翔士郎ちゃんは短い命を閉じなければならなかったのか。事件を報じた「週刊文春」の記事を公開する。(初出:週刊文春 2021年5月6日・13日号 年齢・肩書き等は公開時のまま)
◆◆◆
「こっちに来ませんか」
2016年4月。3児を育てる碇利恵は、周囲から浮いていた巨躯の母親に声をかけ、ママ友の輪に誘った。その春、子供を同じ幼稚園に転入させてきた赤堀恵美子だ。それが地獄の始まりだった。
福岡県篠栗町で、碇の三男だった5歳児の碇翔士郎(しょうじろう)ちゃんが餓死したのは、昨年4月18日のこと。今年3月、碇と赤堀が保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕され、後に起訴された。
赤堀は一貫して容疑を否認。大分に住む老父は「今も娘を信じる」と居直る。
「マインドコントロールというけど、家庭は別々だし、我が子が餓死するまで母親がなんもせんて、ちょっとおかしかなかですか?」
だが、事件の根底にあるのは、赤堀の常軌を逸した洗脳支配。人の良い碇を懐柔していく手口の詳細も新たに分かってきた。キーワードは“アメとムチ”だ。
打ち解けてすぐ、赤堀は碇に嘘を吹き込み始める。
「あなたをのけ者にしたママ友のグループLINEがある。悪口言われているよ」
仲良くしてきたママ友たちが、本当は自分を嫌っている――、繰り返し刷り込まれた碇は、人間不信に陥る。すかさず赤堀は「でも私だけは味方」と囁いた。
巧妙なのは、こうして絶望と希望を交互に与え、主従関係を確立したことだ。
「その後、赤堀は『あなたの発言で傷ついたママ友が裁判を起こした』と不安を煽っている。同時に『私も訴えられているし、一緒に頑張ろう』、『これを乗り越えたら普通の生活に戻れるから』と碇を励まし続けた。そして架空のママ友トラブルを自分が解決したように見せかけ、より信頼を獲得した」(捜査関係者)
絶妙に“アメ”を差し出す赤堀の謀略によって、碇は夫と離婚、親族も遠ざけた。すると赤堀は“ムチ”を強めていくのだ。
「優しい言葉をかけたかと思えば、些細なことで罵倒したり、大声で怒鳴りつけたりして、恐怖も植え付けていった」(同前)