のどかな景色が広がる山形県羽黒町(現・鶴岡市)で、2001年4月28日、山形県警を揺るがすような前代未聞の事件が起きた。資産家といわれた旧家に押し入った犯人たちが、この家の主婦を包丁で刺し殺し、娘にも軽傷を負わせて逃走した「山形県資産家母娘殺傷事件」である。

犯人は中国人の男4人組か?

 事件当日16時前、犯人の男4人がこの家に押し入った。その物音に玄関先に出てきたこの家の主婦を、男らは抑えつけ土間へ引きずり込み、手足を粘着テープや電気コードで縛りあげた。それでもなお抵抗する主婦に、主犯格の男は「仕事の邪魔だ」と左胸に包丁を突き刺し殺害。母親の悲鳴を聞いて出てきた高校生の長女にも切りつけ、腰辺りに軽いけがをさせた。長女は隣家に逃げて助けを求め、そこから警察に通報。男らは何も取らずに逃走した。

 静かな町を揺るがしたこの事件は、山形県警始まって以来の凶悪事件であったという。えらい事件が起きたと地元の新聞やテレビは、連日のように大きく取り上げ、全国的にも注目された。当初、犯人らにつながるような手掛かりがいくつか見つかったこともあり、捜査はスムーズに進展するものと思われた。

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 山形県警捜査1課と鶴岡署による捜査本部は、現場となった玄関付近から4種類の足跡を採取していた。また、犯行前後に現場付近で不審な男4人組が目撃されていたことなどから、実行犯は4人とみられていた。さらに凶器と思われる血のついた包丁が道路脇で発見された。そこから被害者のDNAが検出されたため、これを凶器と断定。包丁は中国語の新聞紙で包まれ捨てられており、犯人らは中国人の可能性が高いとして捜査が進められた。

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「緊縛強盗団」とは違うやりくち

「ちょうど日本のあちこちで、中国人や韓国人の犯罪グループによる犯罪が増えていた頃だ。特に資産家の自宅を狙う緊縛強盗が多発していたため、事件を聞き、今度は山形かと思った。だが、暗躍していた緊縛強盗団とは違うなと踏んでいた」

 山形県警からの応援要請により、のちに捜査に携わることになった警視庁の元刑事Aは、この事件の第一報にそんな印象を持ったという。

「緊縛強盗団とは違い、やつらは被害者らをいきなり襲って刺傷させ、その後、何も取らずにすぐに逃げた。手なれた強盗団なら、こんなヘマはしない。やつらは、被害者からできるだけ多くの物を奪うのが目的で押し入る。被害者が家にいる可能性も考えて犯行に及んでいる。被害者がいれば身体を縛り上げて監禁し、キャッシュカードなどの暗証番号を聞き出すのが手口の1つ。だがこの犯人は違う」

 犯人らはプロの強盗団ではないと捜査本部の捜査員たちも同様に考えたはずだと、元刑事Aはいう。