ホシはどこかか来たのか…難航する捜査
「だがそうすると、逆に、中国人と思われるホシはいったいどこから来たのか。なぜ、この家を狙ったのかがわからない。捕まえるのが難しい事件ともいえた」
捜査本部の懸命な聞き込みにも関わらず、犯人らが中国人らしいという情報以上のものはなく、犯人につながりそうな証拠や証言は出てこなかったのだ。
捜査本部では中国人らしきホシを追い、東京にも捜査員を派遣して容疑者を探したようだと元刑事Aは証言する。
「派遣された捜査員もきっと困っただろう。慣れない大都会の雑踏で、どこに行けば中国人らの情報を得ることができるかわからず、道行く人を見ながら困り果てたはずだ。山形と新宿、渋谷では、環境がかけ離れ過ぎている。
地方の小さな都市で、数人しかいない白人男性を探せというのとはわけが違う。街中に何万人、何十万人と行き交う人込みの中から、日本人と見分けがつかないような中国人を探し出すことは、まず不可能だ」
警視庁国際捜査課の情報班が動き出す
捜査本部では、犯人を捕まえる見通しが立たず、捜査自体が進んでいなかった。県警だけでは、これ以上どうにもしようがない。難航する中、事件解決の糸口を掴んだのは、意外な助っ人の存在だった。殺人犯を野放しにできない山形県警は、威信とメンツをかけて、警視庁刑事部に応援要請をしたのだ。
警視庁刑事部は、外国人犯罪捜査を専門とする国際捜査課に協力を指示。組織犯罪対策部の前身でもある国際捜査課は、この要請に即座に対応する。事件が大きく報道されていたこともあり、捜査員たちはその概要をよく知っていた。捜査本部により捜査状況を説明された国際捜査課は、さっそく容疑者に関する情報収集に動く。
「事件現場が山形県羽黒町だったため、事件班が動くことはなく、情報班が動いた。犯人に関する情報収集が応援捜査の中心になった」(元刑事A)