外国人容疑者の割り出しに不可欠な外国人協力者
犯人が中国人だとすれば、彼らはなぜ、どうやって山形まで行ったか。なぜ強盗に入ったのかという動機より、犯人につながる鍵はそこにあったと、情報班として情報収集にあたった元刑事Bもいう。
「中国から来日したばかりであれば、遠い山形まで強盗に行くわけがない。自分たちだけでは、まず行くことはできない。犯人は、おそらく日本にしばらくいるやつら。ある程度、土地勘のある者もいるはずだが、山形に土地勘のある中国人はどう考えても数が少ない。山形まで行くには、日本を熟知した仲間の協力がなければ行けないはずだ」
国際捜査課の捜査員らは手分けして、残留孤児らを中心に情報を提供してくれそうな中国人協力者らに、捜査協力を依頼した。
「こういう事件が山形で起き、犯人の中国人たちを探している。協力してくれないか」
外国人の犯罪を捜査する者は、捜査に協力してくれる外国人をできるだけ多く獲得しようと努力するという。この事件のように、協力者からの情報が事件解決の糸口になることもあるからだ。同国者同士には情報ネットワークがあるが、そのネットワークに日本人が入ることはできないと言ってよい。
「いくら警察とはいえ、日本人が日本人組織の中だけで、日本人組織を駆使して捜査しても、逃げ隠れする外国人被疑者を見つけ出すのは容易ではない」と元刑事Bは断言する。
捜査協力者からもたらされた有力情報
数時間後、ある情報が1人の捜査員にもたらされる。
「犯人は東京にいるらしい。東京のどこにいるかはわからないが、名前はわかった。どうも日本語学校の学生のようだ」
名前が判明し、身体的特徴も把握。留学生であれば、ビザを取得し入国した時の書類がある。どんな人物でどこに住んでいるのかという情報は、そこで入手することができるのだ。
情報提供者はさらに続けた。
「その家には骨董品が多くあり、金がいっぱいあるという話を、地元のやくざから聞いたらしい。泥棒に入ったら、玄関に奥さんと娘さんが出てきて、騒がれたから刺したという話みたいだ」
情報班では入手した情報を確認後、すぐさま山形県警に報告。協力を要請したその日のうちに、容疑者につながる有力情報が捜査本部にもたらされた。
捜査本部では容疑者とされる中国人の指紋を入手し、証拠品についていた指紋と照合する作業を進めた。すると凶器を包んでいた新聞紙に残されていた指紋と、容疑者の指紋が一致したのだ。あまりに早い展開に、捜査員らは驚きを隠せなかったという。