文春オンライン

2022/09/26

「明るく元気でさわやか」なヒロインの時代は終わった?

 念のため、ここでなぜ、朝ドラヒロインに、明るさ、元気さ、さわやかさが期待されるのかおさらいしておこう。00年代のはじめまで確かに朝ドラ3原則は「明るく・元気に・さわやかに」とされていた(NHKドラマ・ガイド 『私の青空』〈NHK出版〉より)。そもそもの発端が「私たちももっとのびやかに、さわやかに生きたい」(『朝ドラの55年』〈NHK 出版〉より)という願いに応えたドラマシリーズであったこともあって、それが綿々と続いてきたのだ。

 筆者は『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書、2017年)で2010年~17年の朝ドラ、『ネットと朝ドラ』(株式会社blueprint、2022年)で17年~22年の朝ドラを一作一作分析しているが、ヒロイン像が「明るく・元気に・さわやかに」からじょじょに変わってきて、『べっぴんさん』(16年)のヒロインは思ったことを口にできない内気な人物で、『ひよっこ』(17年)のヒロインはこころのなかでちょっぴり毒を吐いていて、『おかえりモネ』(21年)のヒロインは「わたし何もできなかった」と人に言えない悩みを抱えている。

 曇りない明るさでいつも笑っているようなヒロインは少なくなってきた。『なつぞら』(19年)のヒロインは「無理に笑うことはない。謝ることもない。お前は堂
々としてろ」と北海道の育ての祖父・泰樹(草刈正雄)にそう言われている。ちなみに草刈正雄は「ちむどんどん」の最終週第122回に登場すると話題になっている。

『なつぞら』NHK公式サイトより

 健気さを売りにしないヒロインはかつてのようにたくさんの人に支持されにくい。影があったり我が強すぎたりするヒロインを敬遠してしまうからだ。逆に、常にとびきり明るいヒロインが苦手という人には支持される。

 多様性の時代、これまでとは違うヒロイン像を模索する状況で、黒島結菜の特筆すべき点は、従来の正統的な明るさ元気さをキープしながら、常識的とされる言動の軌道を外れていくという難しいことをけろりと演じたことである。

『べっぴんさん』も『ひよっこ』も『おかえりモネ』もヒロインがおとなしくやや辛気臭いという意見があった。たいてい、何かを抱えていますよという憂い顔になるのだが、黒島は暢子をいっさいそう見せず、ひたすら明るさと元気を貫いた。自我を通し、空気を読まないことにもほぼ疑問をもたない。

暢子 『ちむどんどん』NHK公式サイトより

 最たるエピソードが幼馴染の和彦(宮沢氷魚)の恋人・愛(飯豊まりえ)に「うち、和彦くんのことが好き」「でも諦める」とわざわざ言わなくていいようなことを宣言したり、和彦の母・重子(鈴木保奈美)に毎日お弁当を無理やり届け「うちは何か間違ったことしてる?」ときょとんとするなど、当人は悪いとまったく思っていない様子が他者を苛立たせるというディスコミュニケーションの問題をその身体に引き受けて見事に演じてみせたところに、黒島結菜の俳優としての成熟を感じる。

 情報番組『あさイチ』の「プレミアムトーク」に黒島が出たとき、川栄李奈が「落ち着いていて」「喜怒哀楽をあまり出さない」と証言していたように、どんなに猪突猛進の役をやっても常にどこか冷静に見えるので、本気で鈍感でただただ頭の空っぽな役に侵食されずに済んでいる。それが黒島結菜の良さではないか。

 そう、よくよく考えてみると、黒島結菜は以前からそんなに単純な俳優ではなかったのだ。