なぜ「大宮ナポリタン」にイカ?
――それと豚肉は分かるのですが、なぜ埼玉には海がないのにイカが入っているんですか?
「大宮ナポリタン」は、「1種類以上の埼玉県の食材が入っていればいい」というルールなので、あとは好きでいいんです。
――ずいぶんゆるいルールですね(笑)
アメリカのパスタは、ポークとかベーコン……肉なら肉だけだし、イタリアも、魚介パスタなら魚や貝だけ。世界を見ると、案外、肉と魚を混ぜた料理は少ないんですよ。でも、沖縄は “チャンプルースタイル”といって、おいしければ、こだわらずに何でも混ぜて使う。だからうちの「大宮ナポリタン」には、豚肉もイカも入っています。肉も魚介も入っていたほうが、おいしいでしょ?
――確かに。ところで宮城さんが自分のお店だけじゃなくて、大宮全体のことを考えるようになった原点は何ですか?
うちの父が、戦後、いろいろ商売をやっていたときに言っていた言葉があるんです。「地域が栄えると、いい意味で競争になって、よいものができる」って。逆に1店舗だけ儲けたところで、街は栄えない。みんなで盛り上げていったほうが大宮にとっていいから。
大宮には、まだ人情が残っている
――宮城さんにとって、その大宮はどんなところですか?
そうね、大宮は都会ではあるけれど、まだ沖縄同様、人情が残っているよね。そういうところが好きかな。お客さんもちょっと東京に遊びに行って、こっちに戻ってくるとほっとするっていう人が多いよね。私は大宜味村出身だけど、田舎の人はみな顔なじみ。やっぱり、人間は一人ではやっていけない。困ったらお互い様。そういう気持ちがないと人は成長しないでしょ。
昔、沖縄でうちの隣の家のおじさんがすごく怖くてね。子供のころ、いたずらすると怒られた。今は同じマンションでも挨拶をしない。ちょっとさみしいよね。血縁がなくても、子供のころ近くにいた人間は兄弟のようなもの。日本は地域で成り立っていると思うよ。街は変わっても人情はずっと残してほしいね。
――お店の雰囲気は豪華なのに、妙に落ち着いて長居する人が多いのは、そうした宮城さんの想いが詰まっているからでしょうね。
この店もオープンから半世紀が経つけど、本当にたくさんの人に助けてもらった。たいして儲かってないけど、私もスタッフも一生懸命にやっていたのを見ていてくれたのかもしれないよね。嬉しいのは、開店当時、学生で通ってくれた人が、今は60歳! 最近、同窓会でうちの店を使ってくれました。それから、この近くのクラブのホステスさんだった人が、いつの間にか子供ができてお母さんになって、今度は孫も生まれて、今は3世代で食べにきてくれる。そんな毎日が楽しいです。
写真=末永裕樹/文藝春秋