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 一方、弟も兄につく社員には冷淡だった。

 両者の争いは激しくなり、あるとき、こんな「事件」が起きた。歴彦氏が、業界関係者との昼食から戻ると、

〈僕のいない1時間半か2時間の間に、棚から、机の引き出しから、全部、書類がなくなっていた。異常でしょう? あ、これは本当に何かが起こっている。誰かが僕に辞めてほしいんだな、と〉(歴彦氏)

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歴彦氏の追放、そして春樹氏の逮捕

 1992年、歴彦氏は角川書店を追放される。

 ところが、その1年後、角川書店を再び激震が襲う。コカインの不法所持で春樹氏が逮捕されたのだ。

 復帰した歴彦氏は経営幹部を総入れ替えして、個人商店からの脱却を目指した。

〈春樹の時代に、会社は新興宗教のようになってしまっていた。役員も含め、思考能力をなくしてマインドコントロールされていた。そういう悪い空気を全面的に変えなくてはいけないと思いましたね〉(歴彦氏)

順調な経営の陰の「異変」、そして逮捕

 復帰後、歴彦氏は抜群の経営手腕を発揮して、みずからが種をまいたゲームやラノベ、アニメなどのサブカル・コンテンツを展開。小学館グループ、講談社グループに対抗する第三極を作り上げる。2013年には社名を「KADOKAWA」と改めた。森氏がインタビューしたのは、その後の時期だ。

 ところが、業績が拡大していく陰で、奇妙な案件が増えていった。たとえば映画『犬神家の一族』のリメイク。

「角川映画の第一歩という記念すべき作品ですが、冒頭に『角川春樹事務所』とクレジットが入り、春樹氏も出演している。だから歴彦さんはそれを上書きして、作り直したかったんだと思います」(KADOKAWA関係者)

 歴彦氏主導の案件は「会長案件」と言われ、最優先だったという。オリンピックのスポンサー関連も「会長案件」だった。そして会長である歴彦氏が逮捕された……。

 角川家、KADOKAWAの歴史を追うと、歴彦氏逮捕の背景に、いまだ解けない「角川一族」の呪縛があることが浮かび上がる。

 その詳細は文藝春秋11月号で、森健氏がルポ〈春樹と歴彦「角川家」の祟り」〉で明かしている。