いまや出版大手というより、アニメ、ゲーム、動画サイトなどを運営する巨大メディア企業というべきKADOKAWA。9月14日、その会長、角川歴彦氏が、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定に関する贈賄容疑で逮捕され、社会に衝撃がはしった。
角川家は、93年にコカイン不法所持で逮捕された、歴彦氏の兄で元角川書店社長の春樹氏に次いで、二人目の逮捕者を出したことになる。
世間を大きく騒がせた一連の事態を理解する鍵は、角川家の歴史にある――。
ジャーナリストの森健氏は、かつて歴彦被告に、記事化を前提にした7時間もの独占インタビューを行っている(企画中断のため未公開)。また森氏は2年前に春樹氏にも取材している。
歴彦被告、春樹氏の言葉を手がかりに、森氏は角川家とKADOKAWAの来歴をたどった。
父と対立する兄、翻弄される弟
春樹・歴彦兄弟の父、角川源義が日本史や国文学の良書を出版するため、角川書店を創業したのは戦後まもない1945年11月だった。
創業当初は経営が苦しかったが、創刊した角川文庫があたり、文学全集も売れて、経営は大きく好転する。
〈ある日、父が興奮して帰ってきて、子どもたちを起こした。「ビュイックを買ったぞ!」 って。日本にはまだ16台しかなかったアメ車です。角川は成り上がりなんですよ〉(歴彦氏)
学者肌だった創業者の源義だが、私生活では、子ども3人の生母と離婚して、元部下と再婚するなど、6回も結婚した春樹氏を思わせるような無頼派だった。
〈(預けられていた祖父母の家から)帰ってきたら、母が替わっていたんだよね〉(歴彦氏)
この父と反目していたのが春樹氏だ。成績も良く、顔も父に似ている弟はいつも誉められ、自分が常に叱られるばかりだったと、自伝『わが闘争』に記している。
弟の歴彦氏も、父から理不尽な仕打ちをうけている。
いやいや将棋を学ばされ、ようやく面白くなってきた頃に「もう、お前、行かなくていい」と辞めさせられたのだ。
〈驚いて「なんで」と聞いたら、「お前を棋士にした覚えはない!」と。こんな不条理な話はない。世の中は不条理なんだと父から学んだね〉(歴彦氏)