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すべては、明日の公演を中止にしないため
これまた知ってる人は知ってますが、おいらは演劇の演出家を40年ぐらいやっています。
劇団でも、一回限りのプロデュース公演でも、人間が集まりますから、何らかのトラブルはいろいろとあります。
でも、初日は近づき、幕が開いたら楽日まで、公演を続けなければいけません。「ショウ・マスト・ゴウ・オン」です。
何があっても、ショウは続けなければいけないのです。
なので、いろいろとゴタゴタが起こったら、なんとか「明日も公演できる方法」をずっと考えてきました。
僕は22歳で劇団を作りました。俳優も同世代か年下でしたから、俳優としてのプロ意識なんてものはまだありませんでした。それより、みんな人生の悩みに真剣でした。
でも、公演は続くのです。
三角関係になっただの、浮気されただの、親が故郷に帰ってこいと言っているだの、さまざまな悩みを相談されながら、考えていることは、「明日、公演がある。どうやったら、すべてを放り投げないで、なんとか公演を続けられるのだろうか?」ということでした。
つまりは、どんな相談にも、「観念論ではなく、理想論でもなく、精神論だけでもなく、具体的で実行可能な、だけど小さなアドバイス」を常に探しました。
すべては、明日の公演を中止にしないためでした。
映画監督とかTVディレクターを頭の片隅でうらやましく思ったりした時もあります。
映像の人達は、一度、俳優さんの演技を撮れば、後はどんな問題が起こっても問題ないのです。