「うちの娘を壊したのは、お前だあ!」「明日、大学に抗議に行く、お前達は娘をメチャメチャにした」

 保護者から授業内容に激しいクレームをつけられた劇作家の鴻上尚史さん。実際に、授業を見学してもらって、とことん話そうと思った彼が見た「予想外の結末」とは?

 鴻上さんが週刊SPA!で連載した「ドン・キホーテのピアス」から、選りすぐりのエッセーを集めた『人生ってなんだ』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

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保護者からのクレームに鴻上さんはどう対応したのか? ©文藝春秋

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子供だと嘆くなら子供扱いをやめること

 去年に引き続いて、今年も早稲田大学で「2週間で芝居を作って発表する」というムボー過ぎてムボー過ぎるがゆえにやってしまう授業が終わりました。

 なんのことかと言えば、おいらは早稲田大学で客員教授なんてーものをやっているのですが、夏期ワークショップという名前で、一般の生徒相手に、2週間で芝居を作って、なおかつ、発表会までやるという、ものすごい授業があるのです。

 ま、プロの演劇人から見ると、「そりゃあ、無理でしょう」と一言ですまされるものなんですが、これまた、プロの演劇人であるおいらからすると、あんまりにもムボーなので、かえって、清々しさを感じる授業なのです。

 学生はもう、2週間、お祭りみたいなもんで、朝から晩まで役者とスタッフを兼ねて走り回り、土日は一応休みとなっていますが、間に合わない舞台装置を作っていたり、衣装を縫ったりしています。


 去年は、なにもなく無事にお祭りの授業は終わったのですが、今年は、途中でリタイアする学生が何人か出ました。

 本人達は一生懸命なので、途中でリタイアしても、単位は出そうと思っているのですが、ある学生の場合は、親が抗議して、学生がリタイアするという結果になりました。

 あんまりにもハードワークなことをやらせている授業がおかしいという抗議でした。

「うちの娘を壊したのは、お前だあ!」と、欠席を心配して電話した(大学の)助手さんに、父親が突然、娘の携帯を奪って叫んだそうです。

 叫ばれた助手さんは、(つまりは、私の演出助手さんです)今まで、人間から、そんな怒鳴られ方はしたことがなかったようで、かなり落ち込んでいました。