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「赤く染まる核ミサイルの心臓部」極秘画像入手 北朝鮮は昨年から核弾頭を増産していた

2022/10/07
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核弾頭増産に向けて再稼働

 5メガワット黒鉛減速炉を稼働すれば、核兵器の材料となるプルトニウムを含有する使用済み核燃料棒ができる。これらを放射線化学研究所で再処理すれば、兵器級プルトニウムが抽出される。他方、ウラン濃縮施設では、原子炉燃料用の低濃縮ウランに加えて、兵器級の高濃縮ウランも生産できる。

 これらの施設が2021年、長期間稼働していた実態が、衛星画像の分析によって可視化されたのだ。

 寧辺の主要核施設における温度解析の暫定結果

 2021年1月、金正恩氏は朝鮮労働党第8回大会で「様々な手段に適用できる戦術核兵器を開発し、超大型核弾頭の生産も持続的に進める」と決定した。寧辺の「核の心臓部」は、この決定の直後、核弾頭増産に向けて本格再稼働したわけだ。

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 もし黒鉛減速炉が1年間稼働すれば約6キロの兵器級プルトニウムを生産しうる。概算で核弾頭の約1~1.5個分相当の分量と思われる。

 他方、高濃縮ウランについては、寧辺以外にも製造施設があると考えられているが、実態は不明だ。高濃縮ウラン型核兵器の製造力については専門家の間でも大きく見解が分かれており、専門家によって、年間5個または10~15個程度と予測の幅が広い。

 いずれにせよ、北朝鮮は2021年に核兵器複数個分相当量の兵器級核物質を生産した可能性が高い。今この瞬間も、北朝鮮は核弾頭を静かに増産中と考えるべきだろう。直近のミサイル発射にばかり目を奪われがちだが、実は北朝鮮は昨年から粛々と核ミサイル戦力の基盤を強化していたのである。

疑惑の「核施設リノベーション」

 衛星画像の解析からわかるのは、これだけではない。核兵器貯蔵の疑惑がある施設でも新たな進展が見受けられた。中朝国境の丹東市から東へ約80キロの距離に、北朝鮮・平安北道の行政区・竜徳洞がある。山間部の谷間にある田舎だが、CNNによると、米情報機関はここに核兵器貯蔵施設があると考えているという。2018年6月、シンガポールで開催された米朝首脳会談の頃、北朝鮮が複数の施設に核兵器を分散して隠蔽した疑いがもたれているが、竜徳洞はそのうちの一つだ。

 この場所を最初に衛星画像分析で特定したのは、米ミドルベリー国際問題研究所のジェフリー・ルイス教授だ。彼が特定した疑惑の核兵器貯蔵施設は、竜徳洞の山間の小高い崖の上にある。ここに幅約35メートルの空き地があるのだが、2020年半ば頃まではこの空き地に山腹から大きなトンネルが2本、不自然に突き出ていた。ルイス教授とCNNによると、米政府当局はこれらのトンネルが核兵器の地下貯蔵施設の入口と考えていたという。