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“怪しさ満載”の隠蔽工作

 確かにここは怪しさ満載だ。トンネル周辺では、2020年7月中旬~10月中旬の間のどこかの時点で建設工事が開始された。やがて工事が12月初めまでに終わると、トンネルがあった場所には長さ36メートル、奥行き15メートルの大きな三角屋根の立派な「大邸宅」が完成していた。衛星画像を見ると、明らかにその屋根が部分的に湾曲してトンネル2本を覆い隠していることが見てとれる。どう見ても隠蔽目的の建造物としか思えない。その後も改築工事は断続的に続けられ、2021年11月15日撮影の衛星画像では、「豪邸」の敷地内の「庭」に通路と広場が完成していた。「庭付きの大邸宅」の出来上がりである。

 
 竜徳洞の疑惑の核兵器貯蔵施設入口の隠蔽工作(2017年3月と2021年11月の比較)

 果たして彼らが何を目指しているのか定かではないが、この疑惑の地下施設にはこれだけの労力をかけてまで隠蔽しなければならないものが保管されているのは間違いない。通路と広場の整備はロジスティックス面で必要とされたのだろう。疑惑の地下施設の重要性を物語っている。果たしてトンネルの中には何が隠されているのか。

ミサイル工場、秘密の地下施設

 北朝鮮には核関連施設に加えて、様々なミサイル基地や工場も存在する。これらのミサイル関連施設でもインフラ整備等が大々的に進められてきたことが衛星画像からわかる。

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 例えば、平安南道の箴津里チャムジンニにある「テソン機械工場」は、北朝鮮の主要ミサイル工場の一つだ。ここは平壌から南西約15キロに位置しており、平壌と北朝鮮最大の港がある南浦特別市を結ぶ高速道路に近接する。付近には、カンソンのウラン濃縮疑惑がもたれている施設や、北朝鮮が誇る千里馬製鉄連合企業所もある。周囲には幾重もの対空砲陣地が配備されており、このミサイル工場は戦略的重要地域に位置している。

 カンソンの疑惑のウラン濃縮施設とその近隣の地下施設

 同工場は2016年に弾道ミサイルのエンジン試験やICBM搭載用弾頭の耐熱試験が行われたことで知られるが、他にもノドン、スカッド、ムスダン等、短・中距離弾道ミサイルもここで製造されたと考えられている。

 テソン機械工場の主要な地上施設は、複数の山に囲まれた平地にある。そのすぐ北側に白楊山があるが、この山には少なくとも6箇所の地下施設への出入口の存在が10年以上前から衛星画像で確認されていた。専門家の間では、うち少なくとも2箇所はテソン機械工場の地下施設に通じていると考えられてきた。

 白楊山の地下施設は北朝鮮の主要ミサイル工場の重要拠点の1つである。2020年以降、同山中の地下施設はさらに重要度を増したようだ。衛星画像で見ると、白楊山の北側では同年初頭以降、山中の道路網が急速に拡充・整備された様子が一目瞭然にわかる。

 白楊山の地下施設入口(2011年4月時点)

 整備された新たな道路網の全長は総計約5キロに及ぶ。この新たな山道は、山中の地下施設と、山のすぐ北側を走る高速道路を連結している。整備された山道の表面は舗装、強化され、その道幅は約5~7メートル。山道沿いには三叉路が4箇所ほどあるが、いずれも最大道幅が約15メートルもある。これだけの道幅であれば、ミサイルの輸送起立発射機(TEL)の通行も可能であろう。

 つまり、この新たな道路網により、ミサイル搭載TELのような大型軍事車両でも山中から迅速に高速道路へ移動できるようになったわけだ。有事を想定した道路網整備なのかもしれない。

古川勝久氏による「北朝鮮『核ミサイル施設』極秘画像」全文は「文藝春秋」2022年3月号と「文藝春秋 電子版」に掲載しています。

文藝春秋

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北朝鮮「核ミサイル施設」極秘画像