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「IOCは『汚職事件があった国では開催できない』と言うべき」東京オリンピックで露呈したスポーツ界の“悪しき体質”

堂場瞬一さん、山口香さん特別対談 #2

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 社会, スポーツ

note

堂場 オリンピックに関しては、あまりにも巨大になりすぎたし、もはや誰も全容をつかんでいないのではないか、と。この時代に、世界中からアスリートを集めて、国際スポーツ大会を開催する意味は何なのか。プロスポーツは、移籍金の額に騒ぎ、高額年俸の選手たちのパフォーマンスを批評して楽しむわけですから、今のままでもいい。オリンピックに関しては、理念も含めて、ゼロから立て直すべきだと思っています。そんな気持ちで、この小説を書きましたが、スポーツ界からは賛同されないだろうなぁ。

山口 堂場さんの小説について、私が抱いた率直な感想をもう一つだけ話してもいいですか? 

堂場 ぜひお願いします。

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山口 小説の中で、オリンピックを特別視しているアスリートたちの描写を読んでいて、「あなたたちが競技を始めた原点はなんだったんですか」と、問いかけたいと思ったんです。「オリンピックは特別だから」「オリンピックにはドラマがあるから」と、すべてを五輪に捧げようとして、自分をがんじがらめにしていく。ジャーナリストもそうです。一度、そこから解放されれば、新しいスポーツのカタチが見えてくるはずなんです。ぜひ皆さんに読んでほしい。

 

アスリートは「五輪汚職」について声を上げてほしい

山口 今は、若くして活躍するアスリートも多いですよね。彼らにとっては、最初に接する大人が、ジャーナリストだったりするわけです。メディアの方には、「どういう質問をするかで、アスリートの思考が鍛えられる」と伝えているんです。「この喜びを誰に伝えたいですか?」では、選手の思考は育ちません。「なぜあの選択をしたのか」と、直球の質問をしてほしいんです。じっくり考えなければ、答えの出ない問いをしてほしい、と思っています。

堂場 取材をすることで鍛えられるのは記者も同じです。アスリートに取材をするときは、記者も緊張しています。変なことを聞いて、機嫌を悪くしたら、ろくな答えが返ってこないだろう。今後、取材拒否されるかもしれない。相手から本音を引き出すには、どうすればいいか。取材の現場は訓練の場所でもあったんです。スポーツマネジメント会社やチームの管理が厳しくなって、「切磋琢磨する場所」が無くなってきていますけれどね。この問題で残念なのは、現役の選手が声を上げない事です。

 

山口 自分が言ったところで変わらない、という諦めと、練習をして最高のパフォーマンスを出すことが自分の役割だと考えている選手たちが多いと思います。

堂場 絶対に声を上げるべきです。作家の僕は部外者ですが、選手は当事者です。「ふざけんな」という声が上がってもいい。

山口 アスリートは意外とセンシティブで、自分が発信したことに対して、ネガティブな反応があると、傷ついてしまう人も多い。

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