東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件が発覚した。大会組織委員会の元理事、大会スポンサー、関連する広告代理店から逮捕者が続出するなか、スポーツ小説の名手・堂場瞬一さんと、JOCの理事を務めた山口香さんが、「オリンピックの意義」を語り合う。この献言は、オリンピックに群がって、「うまみ」をかすめ取っていく人たちに届くのか。(全2回の1回目/後編を読む)
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堂場 今日はオリンピアンにして、日本オリンピック委員会(JOC)の理事を務めておられた山口香さんとお話するのを楽しみにしていました。といいますのも、東京オリンピック・パラリンピックをめぐる汚職事件の報道をみていて、アスリートの立場から、どう感じられるだろうか、ということをお聞きしたかったからです。現実がここまで腐敗していることに驚いています。
山口 私も、『オリンピックを殺す日』という刺激的な小説を書いた堂場瞬一さんが、作家として、今回の事態をどうご覧になっているか、お話ししたいと思っていました。
堂場 アスリートにとって、オリンピックというのはどんな存在なのでしょうか。
山口 アスリートはオリンピックを特別だと感じています。他にも世界大会があるのに、どうしてなのか。それは4年に1度だということが大きいと思います。私の場合、つまり柔道ですが、オリンピックでメダルを取れば、強烈なスポットライトが当たります。そして、どんな競技であってもアマチュアのアスリートが、きちんと評価される舞台なんですね。コロナ禍で開催された東京五輪は、その存在意義を、もう一度考えるきっかけになったと思っています。
東京オリンピックはスキップすべきだった
堂場 まさに、そうですね。ただ私は、スキップすべきだと考えていました。感染拡大の危険もあるなかで、かかわる人々の負担がとても大きくなると思っていたからです。「ピークが過ぎてしまう」。そういったアスリートの心情はよく分かるのですが…。
山口 私もスキップすることは、有りだと思っていました。全世界を見渡し、トレーニングできる環境を比較したら、まったくフェアな状況ではありませんでしたから。今回の東京五輪は、立場によって、評価が分かれたでしょうね。
堂場 山口さんは、オリンピック中継をご覧になっていましたか?
山口 元々スポーツ全般が好きですから、可能な限り見ていました。
堂場 私は、オリンピック中継を見ながら、誰にも見せることのない『オリンピック日記』をつけていたんです。がらがらのスタジアムを見ながら、「何かが違う」「おかしい」と書き続けていました。