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山口 35人ということを考えても、よもや何かを決めることができる会議体ではないことは想像できると思います。オリンピアンやJOC、企業の役員、衆議院議員らからなる35人の集団。どうやって会議を進めるかといったら、喧々諤々と議論をするのではなく、事務方が議案を出して、基本的には異議なし、といった形で、進んでいく。だとすると、理事の一人一人が、大会組織委員会が決めることに対しての「責任」という感覚を持ちにくいでしょう。

堂場 それをいいことに、電通出身でスポーツマネジメント、マーケティングの専門家である高橋元理事が、サッカーのワールドカップなどと、同じ手法でやっていたのかもしれません。ただし、サッカーは、プロスポーツ。お金が動いて当然。高額の移籍金がニュースになる世界ですから。同じことを、オリンピックで絶対にやってはいけない。

堂場瞬一さんの小説『オリンピックを殺す日』(文藝春秋)

山口 あくまで想像ですが、オリンピックは、公金が入ってくる大イベントである、くらいの認識だったのではないでしょうか。

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堂場 もっとひどくて、リベートをもらうのは当然だ、という感覚だったかもしれません。組織委員会の理事は、みなし公務員であるわけですから、自分の業務に関して、お金をもらってはダメなんです。

縦社会を重視する日本社会の悪しき風習

山口 事件の概要を知った時に、「この現代において、こんなにわかりやすい汚職事件が起こるのか」と驚きました。

堂場 時代劇じゃないですが、「三河屋、おぬしもワルよのう」といって、代官が懐にお金をしまうようなもんですよ。

山口 電通における先輩後輩の関係性、元同僚といった関係性を使った犯罪ということも特徴ですね。「これは俺がかかわっている。だから、おまえ、ちゃんとやっとけよ」と、文句を言わせない。縦社会を重視する日本の悪い側面が出ている。そういう因習から脱却して、公平性、公正性を世界にアピールするいい機会だったと思うのですが……。

 

堂場 ところが……。

山口 大会組織委員会会長だった森喜朗さんの女性蔑視発言もそう。設計段階で当初の約3倍の約3500億円まで工費が膨らみ、白紙撤回された新国立競技場の問題もそう。国民にあきれられてしまいます。

オリンピックに群がって、「うまみ」をかすめ取っていく人たち。

堂場 オリンピックやアスリートへの嫌悪感にもつながりかねないと、私は思っています。「あなたたちは、汚職や嘘が当然の汚い世界にいるんでしょう」という偏見が起きかねない。

山口 アスリートたちは「世界最高峰の勝負の世界」を見せようとしている。その周りの人たちが、砂糖に群がるアリのように、うまみをかすめ取っていく。