8歳の少女・ゆいは「心の病気」で伏せっている母親の代わりに、家事や幼い弟の世話に追われている。小学校の帰りに買い出しをして、父親や認知症の祖父のぶんも夕食を作る。不安定な母親の心のケアまで、ゆいの仕事である――。
厚生労働省が2022年4月に発表した調査によると小学生の約15人に1人が、大人が担うはずの家事や介護・看病を日常的に行う「ヤングケアラー」だという。
漫画家・水谷緑さんが10月21日に上梓した『私だけ年を取っているみたいだ。ヤングケアラーの再生日記』は、ヤングケアラー当事者から聞いたエピソードを、水谷さんがまとめた実録コミックだ。それぞれのエピソードは、「ゆい」という1人の人物の体験として描かれている。
ここでは水谷さんに、取材を通じて出会った当事者の方々の印象や、インパクトのあるタイトルの意味について伺った。
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「なんで子どもは最初から親を信頼しているのかな」
――ヤングケアラーについて漫画を描かれたのはなぜですか。
水谷緑(以下、水谷) 横山恵子さんと蔭山正子さんの本『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』(2017年/明石書店)を読んで感銘を受けた編集者の方から提案を受けて描くことになりました。横山さんは今回の本の監修やコラムも担当してくださっています。
実は、妊娠しているタイミングでお話をいただいたこともあって、最初は「子どもがかわいそうな目に遭っている話を知るのは怖いな」という感覚もありました。
――そうだったんですね。
水谷 実際に話を聞いてみると、ヤングケアラー当事者の方々はみんなすごく達観しているように感じました。20代前半の方が40代ぐらいに落ち着いて見えたりして。いろいろな経験をしたからかもしれませんが、大人っぽいというか、自分の言葉を持っていてすごいなって思う方ばかりで、だんだん興味を抱くようになったんです。
中には子育て真っ最中の方もいて、彼女の話にハッとさせられました。親に向かってハイハイしてくる赤ちゃんを見て「なんで子どもは最初から親を信頼しているのかな」と思ったそうなんですね。私は当たり前だと思っていたので、「そこから疑問を持つんだ」と新鮮に感じたんです。
――今回のマンガで描かれるエピソードのひとつひとつは、ヤングケアラー当事者の方々の実体験がもとになっているんですよね。当事者の方への取材はどのように行ったのでしょうか。
水谷 ヤングケアラー当事者の団体に所属する方など、全部で10名くらいに話を聞きました。会える方はお会いして1対1で、関西や沖縄に住んでいる人にはオンラインで。
――話を聞く前にヤングケアラーに対して抱いていたイメージと、実際の当事者の方の印象は違いましたか?
水谷 そうですね。実際に話を聞いてみると、想像していたよりみんなしたたかだなと思いました。「親が暴れたら速やかに押し入れに隠れて、マンガ雑誌を読んでやり過ごす」とか、子どもたちなりに考えて行動しているんですよね。