井上 それもかわいくって、お話を聞くのも楽しいし、教室内で起きた出来事もお友達のことも全部把握できるくらいしゃべってくれました。
──子育てとお仕事の両立はどうしていましたか?
井上 同居のおばあちゃんと、近所に住むおばあちゃんの2人が支えてくれたのが大きかったです。2人がいなければ今の自分はありません。娘の学童もいいところだったので、楽しく元気に過ごしてくれて、環境にも恵まれたのもありがたいことです。
家族といえば、声優業界って全体が大きな家族みたいな雰囲気もあるんです。娘が現場に行くと「ママによろしくって言われたよ」と教えてくれたり、「喜久子ちゃんの娘さんなんだね」と娘のことを気にかけてくださる方もいて。みなさんが遠い親戚のように見守ってくれているのが本当にあったかいなって。
若手に笑顔でリラックスして役に臨んでほしい
──声優ブームで、声優業がアイドル化した時期に感じた変化はありますか?
井上 常に流れに身を任せてきたので、気づいてなかったんですよ。敏感な方はちゃんと色々感じていたかもしれませんが、私は全然。今と違ってネットで反応をあれこれ調べるっていうのもなかったですから。
そういう意味で、若い声優さんは大変です。私達の方が人数は少なかったし、ネットもないし。今は人数が多くて、役をどう演じるかだけでなく、様々なリクエストにも応えます。SNSでの発信も得手・不得手がある中でどうするか考えないといけないですから。
──喜久子さんがパーソナリティを務めたラジオでも、特に『渚と早苗のおまえにレインボー』でほの花さんについてよくお話ししていました。最近は声優でも結婚や妊娠・出産について公にする方も多いですが、少し前だとそうではなかったように思います。
井上 「こんなことがあったんだよ」と、みなさんに楽しんでもらいたい気持ちだけでもう自由に、好きにしゃべっていました。『CLANNAD』が家族の話だったから話題にしやすかったのかも。
声優業も育児も私にはとても大切で、ある種、同じ位置にあったのかもしれません。でも、それを言わないのもまたプロ意識。どちらの選択もいいと思います。
──「自分が楽しむ」と「みんなにも楽しんでもらいたい」はずっと一貫しているスタンスですね。
井上 そうですね。とはいえ、私みたいなキャリアの人間は、これからの時代の声優のみなさんのために、業界に対していうべきことは言ったほうがいいんじゃないかと悩むこともあります。現場でも何か起きた時に前に立って調整をするとか。
ただ、自分がそういったことに向いてないんです。全然うまくなれないし、勇気もないし言葉も足りない。現場をよくしていくために必要なことが何かを考えたら、まずはスタジオで若い子に笑顔で、リラックスしてお芝居をしてもらうのが一番だと思うから、自分にやれることを精一杯やりたいです。
写真=平松 市聖/文藝春秋
ヘアメイク=中村 友里香
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