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「若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする」採用ページを見ても納得…吉野家から「女性蔑視発言」が生まれたワケ

『男性中心企業の終焉』 #2

浜田 敬子 2022/10/24

 吉野家のビジネスの成長のために、女性顧客を取り込むために、そのために女性の視点や意見を反映させる。なんと企業都合なのだろうと思った。

 この文章の主語は「吉野家」だ。吉野家が社員にどうして欲しいのかだけが書かれており、吉野家のビジネス発展のために女性を「活用」するのだと読める。企業が最も「見せたい姿だけを見せる」採用ページですら、そう感じられるのだから、社内で飛び交う本音はもっと露骨な「女性活用」なのではないか。

 元常務がその発言を厳しく非難された理由の一つが、女性を「モノ」のように扱い、一人の人間として尊重していなかったことだ。彼がこうした発言を日常的にしていたのか、社内で共通の戦略として認識されていたのかはわからないが、この採用に関する文章を見た時に、企業としても吉野家のダイバーシティや女性活躍が表層的だったのではないかと感じた。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の本質を徹底的に考え、理解していれば、あの発言は決して生まれないからだ。

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 ビジネスのため、人材採用のため「だけに」表面的にD&Iを推進している企業を、私は「ジェンダーウォッシュ」企業と言っている。ウォッシュ企業、上辺だけのダイバーシティ企業の特徴は魂が入っていないことだ。

 D&Iの根底にあるのはジェンダーを含め、国籍や人種、年齢など属性で人を差別しないということだ。その本質を理解し徹底していなければ、いつこのような発言が出てもおかしくない。

 さらに昨今、経営にはウェルビーイングの視点が必要だと言われるようになった。これも一見便利でウォッシュに使われやすい言葉だ。ウェルビーイングな状態とは、働く社員がそれぞれの能力を十分に発揮できるよう環境を整え、やりがいや幸福感を感じる状況。従業員が幸福に働けてこそ、ビジネスの成長は結果的についてくるという経営の主語は「社員」だ。吉野家の姿勢は「古臭く」感じる。

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「女性を応援する」はマーケティングのため?

 この元常務発言でもう一つ根深い問題だと思ったのが、彼がグローバル企業で知られるP&Gの出身だったことだ。P&Gはこれまで単に商品の宣伝をするだけでなく、女性を応援し、悩みに寄り添う数々のキャンペーンを仕掛けてきた。

 記憶に新しいのが、「就活をもっと自由に」という広告。就活の時だけ髪を黒に戻してひっつめるという画一的なヘアスタイルに対する女子学生の違和感をすくい取った。SK-Ⅱという化粧品ブランドでは、女性が受けている社会的なプレッシャーからの解放を呼びかけるキャンペーンを世界中で展開してきた。単に啓蒙するだけでなく、日本では渋谷区と組んで女性起業家支援もしている。

 私はビジネスインサイダージャパンで、SK-Ⅱのキャンペーンを主導したグローバルCEOにもインタビューしたが、その時にこう言われたことが非常に印象に残っている。