「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする」――今年4月、牛丼チェーン大手「吉野家」の元常務による女性蔑視発言が注目を集めた。

 ジャーナリストの浜田敬子氏によれば、差別を増長する姿勢は吉野家の「採用ページ」からも感じられたという。今の企業として、吉野家に欠けた視点とは? 浜田氏の新刊『男性中心企業の終焉』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

吉野家に足りない視点とは? ©文春オンライン編集部

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吉野家問題とジェンダーウォッシュ

 女性活躍を積極的に進めていることを公表し、女性社員や管理職の数値を達成していれば、真のダイバーシティ企業なのか、ジェンダー平等を達成している企業なのか、という点は慎重に見極める必要がある。

 私がこのことを改めて強く感じたのが、2022年4月に起きた吉野家元常務による女性蔑視発言だった。

 著名マーケターとして知られる吉野家元常務が早稲田大学の社会人向け講座で、若い女性の集客に苦労する自社のマーケティング戦略について、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする」と「生娘をシャブ漬け」戦略として話した一件では、吉野家だけでなく早稲田大学も、「ジェンダー・人権の観点から許されるものではない」として即謝罪に追い込まれた。さらに元常務は吉野家だけでなく、それ以外の企業でも役職を即解任されるなど、今の社会や企業では一点の弁解の余地もないほど問題だらけの発言だった。

 吉野家も早稲田大学も謝罪や解任(早稲田大学は講座の中止)のタイミングは早かったが、その後の対応を見ていると、なぜこういう発言がなされたのか、なぜこういう発言をする人物を講師として起用しているのか、吉野家内部にこうした考えや発言を容認する風土があるのではないか、という指摘には答えていない。

 元常務発言を告発した受講生の女性は、改めて発言への抗議と再発防止を求めて署名運動を展開、2万9000筆を集めた。吉野家には「今回のような発言が社内で日常的に使用されていなかったか」の検証やコンプライアンスルールの策定・公表を、早大側には「キャンパスハラスメントを含むコンプライアンス実態調査と内容の公表」を求めていたが、二者からはこの要望や署名に対しての具体的な対応は取られていないという。

採用ページを見て感じた「薄っぺらさ」

「とりあえず謝って、この人物を排除すれば一件落着」という姿勢も非常に問題だが、吉野家のホームページを見た時に、この問題の深刻さ、根深さを感じることになった。

 吉野家のホームページには、女性が活躍できる企業だと大々的にうたい、女性社員比率も女性管理職比率も30%であること、育休からの復職支援など女性のための制度も充実していることが掲載されている。

 日本の企業の女性管理職比率平均15%程度に比べると、吉野家は一見「女性活躍企業」だ。

(画像:吉野家採用ページより)

 だが、同社の採用ページを見て、違和感を覚えた。サイトには、「吉野家が将来にわたって成長し、躍進し続ける企業となるために女性が働きやすい職場づくりを目指しています」とあり、吉野家が女性社員に期待することとして、「吉野家は男性社員中心の組織であり、お客様も男性比率が高い。男性顧客に特化したお店づくり『だけ』では明るい未来は訪れない。『女性顧客の獲得』が至上命題。女性の視点や意見を経営に反映させていく必要がある」と書かれている。

 私が抱いた強烈な違和感の正体を言葉にすると「薄っぺらさ」だ。