火葬炉の中に閉じ込められた“ゾッとする”体験
――マンガには、掃除中に火葬炉の中へ閉じ込められそうになるお話もありました。あの事故は、実体験なのですか?
下駄 少し脚色を加えていますけど、実際にあったことです。扉が閉まっている途中に気付いたので、大声で叫んでなんとか外に出られましたけど。
――不幸中の幸いでしたね。
下駄 完全に閉じ込められると、炉の中から外にいる人に助けを求めるのはほぼ不可能だし、それで誤って点火ボタンを押されたら……と考えると今でもゾッとします。
扉を閉めてしまった人は、僕が炉の中にいるのを知っていたし、ちゃんと確認もしていたんです。「今日は何号炉で下駄くんが掃除をしているから、閉めないように気をつけよう」って。僕を閉じ込めそうになったことにすごくショックを受けていました。
でも、どんなに気をつけていても、他のこともやりながらだとフッと忘れる瞬間ってあるじゃないですか。男なのに、ボーッとして間違って女子トイレに入ってしまうみたいな。それと一緒だと思うんです。
ただ、火葬場の場合はそのちょっとしたミスが取り返しのつかない事故を招いてしまうことがある。実際、耳を疑うようなとんでもないミスがこれまでにも起こっていますよ。
火葬すべきでないご遺体を誤って火葬してしまうミスも
――例えばどんなミスが?
下駄 まだお骨上げをする前なのに、台の上に並んでいるご遺骨をきれいに片付けてしまって、ご遺族の前には何も載っていないまっさらな台を出してしまったとか、今火葬すべきでないご遺体を誤って火葬してしまったとか。
幸いにも僕のいた火葬場で重大事故が起きたことはないのですが、ただ運がよかっただけだと思っています。本当にちょっとしたミスが命取りになるので。
――ふとした気の緩みが重大事故につながるんですね。でも、人間なのでずっと気を張りつづけているのも難しい。
下駄 だから僕は、「人は信じても仕事は信じるな」と思いながら仕事に当たっていました。何かミスが発生したときは、人を疑うんじゃなくて仕事を疑う。つまり、ミスが起こりやすい仕組みになっていないかを疑うんです。
僕を火葬炉に閉じ込めそうになった人は、「今ここは下駄くんが掃除中」って知っていたし、炉の入り口に「掃除中」って張り紙もしてあったんですよ。それでもミスは起こってしまった。でも、それは決してその人のせいじゃなくて、仕組みが悪いんです。同じミスを起こさないためには、ただ「気をつけろ」って注意するだけじゃなくて、仕組みを変えなきゃいけない。