当時勤めていた火葬場では、次の清掃時から炉の入り口の前に「掃除中」と書いた大きな立て看板を置くことになりました。これなら張り紙よりも目立つし、扉を閉めるためには看板をどかしたり乗り越えたりしないといけないから、必ず「掃除中」という文言を目にして、炉内に人がいると気付きますよね。
もちろん、どんなに工夫をしてもミスをゼロにするのは難しい。でも、工夫すればするほど限りなくゼロに近づけることはできるはずなんです。
――おっしゃる通りだと思います。
下駄 ただ、いまでも毎年のように全国の火葬場でミスが報告されているのを見ると、そもそも「仕事を疑う」ことをしていないんだろうな、と。「みんなで気をつけよう」「みんなで注意しよう」で終わっていることが多いから、いつまで経っても事故が減らない。これも、火葬場が時代遅れの“閉じられた世界”だから起こっていることだと僕は思っています。
残ったご遺骨から貴金属を回収し、売却して利益を得る自治体も
――閉じられた世界だから、ありえない都市伝説が広まったりもすると。
下駄 以前、文春オンラインさんの取材を受けた時、「火葬中にご遺体が生き返っても火は止めないという噂を信じてしまう人が多くて、それが嫌だったから正しい情報を発信しようと思ってYouTubeを始めた」と話をしましたよね。その発信に一定の効果があったのか、「あの噂はデタラメだ」と認識してくれる人が増えたんです。
でもその一方で、今度はその噂を信じていた人をバッシングする人が現れだした。誤った情報を信じてしまった人たちも、火葬場がよくわからない場所だから、正常な判断ができずに信じてしまっただけだと思うんです。信じた人が悪いんじゃなくて、その状態を作り出している火葬場の現状が悪いんですよ。
――下駄さんの発信で少しずつ火葬場のリアルな情報が広まってきているとはいえ、まだまだ知られていないことも多い。
下駄 例えば、火葬後に残ったご遺骨から貴金属を回収し、それを売却して利益を得ている自治体があることは、ほとんどの人が知らないと思います。ご遺族が収骨したあとに残った遺骨の所有権は自治体に移るから、法的には問題ないんです。
でも、「なんとなく嫌だ」と思う人は絶対いるじゃないですか。その事実を知っていたら、最期のお別れの時に棺に何を入れるか、判断材料のひとつになりますよね。